【みなと新聞】スマートに 水産新時代へ! 生産、加工・流通も効率化
日本でも進むICT活用 資源管理も生産性アップも
『スマート水産業特集』

2020.12.17

 政府は現在、情報通信技術(ICT)やモノのインターネット(IoT)など先端技術を活用した「スマート水産業」の実現を目指している。一口にICTと言っても活用方法は多様。水産のあらゆる場面への応用が考えられる。水産業のスマート化の現状や今後の可能性、実装に向けた課題・対策をひもといていく。

各地で続々先駆事例

国内でも、ICTの活用などスマート水産の実装は進みつつある。

操業データで資源を回復

 北海道留萌市の新星マリン漁協では、乱獲で減っていたナマコ資源の回復にICTを役立てた。漁業者らが、研究者のつくったタブレット端末アプリに日ごとの漁獲量や漁船の操業時間を入力した。漁船にはタブレットに加え衛星利用測位システム(GPS)も取り付け、これらのデータで「どの海域で何時間網を引いたか」「どの海域にどれだけ資源量があるか」を分析。資源量を基にどれだけ漁獲を抑えるべきかを試算して漁船ごとに漁獲枠を配分、漁獲サイズや漁期などの規則も厳格化した。11年に69トンまで減った推定資源量は、取り組みの本格化後の17年に98トンまで4割回復した。

漁業者らが、研究者のつくったタブレット端末アプリに日ごとの漁獲量や漁船の操業時間を入力

資源データ集め効率操業化も両立

 資源回復のためになる漁業データの報告は、1日施行の改正漁業法で多くの漁業者に義務付けられる。そんな中、データ報告の手間を省きつつ、操業効率の向上も両立しようとしている企業としてオーシャンソリューションテクノロジー(OST、長崎県佐世保市、水上陽介代表)、ライトハウス(福岡市、新藤克貴CEO)、日本事務器(東京都渋谷区、田中啓一社長)などが挙がる。

 各社とも、漁業者や漁協がデータを手書きするより手軽にスマートフォンやパソコンに打ち込める仕組みをつくりつつ、データ類を操業にも即役に立つように利用する方法を実証しつつある。

経験知を伝え魚価も予測

 OSTのサービス「トリトンの矛」は、従来手書きだった記録作業を軽くするだけでなく、漁場形成や魚価を予測。「いつ、どの魚を、どの漁場で、どれだけ獲るべきなのか」の判断に役立つ。

 漁船位置の衛星情報・海水温・操業回数・時間が手軽に記録可能。気象条件、市況に加え、システムにたまっていく利用者らの操業データを人工知能(AI)で分析、漁場形成や水揚量、魚価を事前に予測できる。和歌山などで導入が進み、既に実証中の漁場形成予測では若手漁業者がベテラン水準の漁獲を実現。来年6月には魚価予測までの実用化を見込む。

トレサと出口戦略 付加価値化に

 ライトハウスなど7社の参加する「Ocean to Table」は、資源データの透明化を消費者へのPR材料にしようという画期的な取り組みだ。

 漁業者が最新のICTを使って漁獲や漁場の情報を記録。情報の改ざんを防ぐブロックチェーンの技術を使い、楽天EARTH MALLなどのオンラインショップの消費者に対して漁場の位置や持続可能な漁業を目指す漁業者の思い、取り組みなども専用アプリで表示し、リスク管理だけでなく高付加価値化に使う。

 同プロジェクトで使用するライトハウスのサービス「ISANA」は、他業な漁業データを整理し巻網や引網の船団の漁場探索を助けるもの。複数の漁船でリアルタイムの魚群探知機やソナー、航跡などのデータを共有可能。客観的なデータで好漁場を選び、その漁場に無駄な燃油を使わず各船が集まれる。

トレーサビリティーを新たな価値に

定置でも漁獲予測より高精度に

 北海道で長年漁協の事務管理業務を一元管理できる情報システムをつくり漁業者の経営指導などに貢献してきた日本事務器も、漁業データの収集と利用を進める。

 道内斜里町のサケ定置網では、漁場のセンサーで流向、流速、表中底層の海水温を集め、さらに漁船に付けた高性能魚探でサケがどれだけ来遊しているか推定。漁獲量も、船上の漁業者が手軽に陸に速報できるアプリと、市場での確定値を把握するシステムを連動して把握。蓄積したデータで「どの深さの海水温がどのくらいの時に漁獲が伸びるか」「漁獲量報告で漁業者の感覚と実際の値にどの程度の誤差があるのか」を分析する。

定置予想の使い方あれこれ

 KDDI総合研究所(埼玉県ふじみ野市、中島康之会長)も、三重県のゲイト(東京都墨田区、五月女圭一社長)の定置網で、センサー付きブイや水中カメラからのデータを基に漁獲予想などを推進。ゲイトは漁船への観光客の受け入れも進め「どの定置漁場なら観光客の喜ぶ魚が入りやすいか」という観点からも予想を生かす構想だ。

スマートブイによる水温測定と漁獲量予測

 同じく三重県の早田大敷(定置網)では、魚群探知機を付け、陸上から網内の様子を観察。出港前に潮流や漁獲量が読めるので、流れがやむまで作業が中断したり、氷に過不足が出たりするのを防げる。

流通の効率化 魚価の向上に

 水産研究・教育機構は、新潟県糸魚川市で底引網漁獲物の流通効率化を目指す。漁船上のカメラや漁業者のスマホのアプリから漁獲結果を港に発信。漁港側が氷やトラックなど入荷準備を過不足なくできるようにし魚価を高める。

広い視野で不法漁業品の廃絶

 水産研究・教育機構は、米IT大手グーグルの協力下にある米国の民間非営利団体(NPO)のグローバル・フィッシング・ウォッチと協力し、中国漁船の不法イカ漁などを監視する。

 人工衛星からの船の光学画像・集魚灯画像・レーダーなどの情報と船舶自動識別装置(AIS)の情報を生かしている。

養魚の餌やり 無駄を排除

 NTTドコモ(東京都千代田区、吉澤和弘社長)は、養殖の生産効率アップに向けICTを活用。サバ養殖場内の水温や塩分濃度、溶存酸素量などの環境要因を機器類で自動収集し、どの要因が魚体の成長に影響するか分析。作業日誌アプリなどで餌の量とタイミング、カメラなどで摂餌行動や残餌を把握し、状況に合った過不足のない給餌を目指している。

 ウミトロン(東京都港区、藤原謙代表取締役)も養殖業向けのサービスを展開。魚の食欲をAIで分析して最適化した量の餌を自動給餌するシステムや、赤潮の監視システムなどを運用する。

環境データで生物の動き読む

 NTTドコモは、センサー付きブイで環境データを計測し漁業者のスマートフォンで閲覧するサービスも展開。真珠のアコヤガイ養殖で重要な洗浄処理などを海の状態に合わせて実施できるようになった。また、水中ドローンや水中カメラでカキの産卵を察知し、養殖の種付けのタイミングを図る取り組みも進める。

カメラを用い魚体を調べる

 ウミトロンは養殖イケス内の魚のサイズを自動で測定するシステムも開発。魚が出荷サイズに達したかを手軽に判断しやすいようにしている。

 また水産大学校(山口県下関市)は、水揚げされた魚の種類や量をカメラ撮影で自動判別する仕組みを開発中だ。

[みなと新聞2020年12月17日18時20分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/