水産業の関係者らが組織の垣根を越えて参加する「資源回復を目指す水産フォーラム」は5日、水産庁で会見し“水産資源の回復と適切な管理に向けた「5つの提言」”と題した2年弱の議論の取りまとめを報告した。水産業が目指す将来像を「補助金に依存しない漁業の構築」や「漁業者が資源管理に主体的に参加すること」と設定し、水産資源が減った原因を究明して漁業者と共有するための予算・人員の充実などを訴えた。
提言書は「必ずしも(フォーラム)全員一致の見解は持たない」としつつも、水産業の基盤である海洋環境・資源が悪いという見方と、主軸5項目はメンバーの総意であるとまとめた。
提言①海の環境変化を理解するためのデータ収集の強化を図る②資源調査・評価・管理のための予算の増額と人員体制の強化を図る―では米国と比べた日本の現状について、資源評価予算が3分の1未満、国内漁業の監視など資源管理関連予算が1割未満で、関連人員も少ないと指摘した。
漁獲可能量(TAC)制限の対象魚種も米国は約500種だが、日本は現状で8種と、漁業生産量・額が同水準の2国間で隔たりがある。科学の体制が弱く海の環境変化に合わせた資源管理や生産ができない、科学者が漁村を訪問できず信頼関係を築けない、監視が弱いことでTACの違反などを取り締まれないなどの弊害を懸念した。
③資源管理目標の設定に漁業者の主体的参画を促す体制をつくる―では、漁業者や行政など関係者が話し合う場を増やすよう提言。会見したよろず水産相談室afc.masaの宮原正典代表(農水省顧問、前水産研究・教育機構理事長)は、日本の沿岸漁業で入り口管理(漁獲量以外の漁期や漁具、魚体サイズなどの規制)が行われているとしつつ「入り口管理が十分か、はなはだ疑問」と指摘。米国では漁業者が公的な委員会に出ないと行政側の資源管理案に意見できないことから漁業者自ら科学を学んでおり、行政や科学者が漁業者を説得する日本の構図とは異なると分析した。
④小型魚の漁獲規制など手の付けられる資源管理措置から取り組む―では、技術面の課題から漁獲量制限の難しい魚種・漁法について、課題解決までの措置として小型魚・産卵親魚の保護などを提案。漁獲量以外の管理も科学的な根拠に基づいて進めるなどで、柔軟なTAC制度の運用を推奨した。
⑤漁業補助金(漁業収入安定対策事業・漁船リース事業)の改善を図る―では、科学的な資源管理に取り組み、採算の取れるビジョンを持つ漁業者を選んで補助対象とするよう提案した。漁業者の減収の補填(ほてん)など補助の重要性を認めつつも、本来は資源や漁業者収入が減らない状態を目指すべきという考え。補助が増えつつ資源評価・管理の予算が不足しているという近年の傾向には見直しの余地があるとみた。
フォーラムは、宮原氏はじめ農水省OB、東京大学の教授・准教授、漁業者、コンサル企業、メディア記者などで組織。できる限りオープンな議論を目指しており「今の水産資源に問題を感じる人の討論の場」の位置付けだという。
有名レストランなどの料理人が持続可能な水産資源のあり方を考える団体「Chefs for the Blue(シェフス・フォー・ザ・ブルー)」の佐々木ひろこ代表も参加し、「こういった議論に(自分たち)消費者側の意見が入ることは初めてではないか。消費者にも資源管理意識を広げたい」と述べた。
提言は同日、水産庁の神谷崇長官に提出した。今後、水産関係団体、国会議員などにも紹介する展望だ。
[みなと新聞2023年4月6日18時20分配信]
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