スマート漁業の基礎はデータ収集。スマート技術で効率的に海や魚、流通などのデータを集め、分析し、業務に役立てる。だが、データ収集は時に漁業者にとって負担や抵抗感を伴い得る。現場に寄り添った対策が求められよう。
■ データ絞り込み ■
日本学術会議は今秋、スマート技術で集めた海洋環境のデータと水産資源のデータを国が一元管理し、環境要因が資源に与える影響を分析して、漁業管理や海洋政策に役立てるべきとの見解を示した。確かに、水温や餌の分布など環境要因が漁業資源の増減や漁場形成に与える影響が分かれば漁業に役立つ。そして漁業者や自治体、研究機関がばらばらに持つデータを一元的に分析できないと、広大な日本の海で何が起きているのか、全体が見えない。必要なデータが1カ所に集まるよう、国が主導し計画することは大切だろう。
一方、水産IT企業からは、行政へのデータ提出作業が漁業者の手間となることを懸念する声がある。「漁業者が(漁業許可を得る際などに)既に行政に報告しているデータを別件で再提出させられると二度手間。また漁業者が漁労に利活用するデータと、行政報告など別の目的に使うデータを別々に整理するとなると作業時間がかかりすぎる。提出すべきデータの項目を絞るなど、負担を減らす工夫が必要」とみる。
だが現状、複数の水産IT業者は「国が沿岸漁業者に求めるデータ項目がまだ不明確」と指摘。まずは過不足なく、かつ早期に「誰から、どのデータを集めるか」を国が定めることが重要だ。
全ての漁業者が報告すべき=提出を義務化すべきデータ(例:漁獲量規制の順守証明など)、一部の漁業者から集めれば良い=提出義務は不要なデータ(例:資源量分析に必要な詳細な漁獲努力量や魚種別サイズ別漁獲量など)などを仕分けし結論を急ぎたい。
■ 作業の簡便化 ■
漁業者の手間を省く方法に技術開発もある。事例紹介の通り、手書きの作業を省いたり、手計測の作業をスマホ撮影で済ませたりする技術は発達中。ライトハウス(福岡市)は「パソコンに一から入力するのでなく、アプリ内に表示される魚種をタップして数量だけ入れられるようにするなど、少しでも手間を省いている。データを用いてなるべく自動で情報が記録できるよう改善を進めている」。
■ 秘密の保護 ■
秘密の保護も大切な観点だ。例えば漁業者からみて、魚価や漁場形成の速報を商売敵に渡すことはビジネスの妨げ。データ項目ごとに「行政にしか見せないもの」「一定期間を置き公開するもの」「すぐ公開するもの」を分けるなど、工夫が求められる。日本学術会議の見解でも、個人情報や企業秘密の保護に注意を求めている。
また、水産庁がかねて資料づくりを進めている通り、漁業者が研究機関などにデータを提供する際に損をしないよう、契約書のつくり方などを考えることも重要。加えてデータの不正流出の防止も論点となる。
日本事務器は「データ選定にしろ、秘匿性にしろ、現場の声を聴き、現状とすり合わせる作業が必要」と強調。現場に負担が少なく、メリットを実感できるスマート化へ、関係者のさらなる議論が必要そうだ。
■ 人材育成 ■
漁業現場と行政の議論を進める際、つなぎ役となる人材が重要。水産庁は各地の水産・海洋高校にスマート水産業に関わる識者を派遣するなど水産現場への人材の育成・供給を目指す。また同庁研究指導課は「スマート化の事業を実際に構想する際、県レベルの行政が果たす役割が大きい。県側が『こういう水産にしたい』と考える際に『こういう技術を使える』と発想できるよう、技術系企業だけでなく国からの情報伝達を強めたい」と意欲を示している。
研究現場の充実も課題。国内の研究機関からは「人員や研究体制が十分に得られない」との指摘が目立つ。研究体制の不足をスマート化によるデータ収集で補うことに加え、集めたデータを分析する人材、分析結果を分かりやすく漁業現場に伝える人材を育てたい。
[みなと新聞2023年11月28日18時20分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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