JF全漁連(坂本雅信会長)は16日、漁港や漁村の地域資源を観光などに活用する「海業」振興をテーマにオンラインセミナーを開いた。外部講師による講演で地域づくりのマネジメントなどを手掛けるアール・ピー・アイ(東京都千代田区)の大島肇社長と大分大経済学部地域システム学科の亀岡紘平准教授が登壇。いずれの講演でも漁村の生活や実情を優先させた上で、必要に応じて異業種とも連携し、多角化を図るといった姿勢を重視した。
アール・ピー・アイの大島社長は、海業の推進にあたり地域特有の生活実態も魅力だと強調。海業発祥の神奈川県三浦市で酒店の2階を客室に改装した宿「山田屋」などを紹介した。古民家や商店などを利用した宿泊施設の需要が高まっているとし、モノからコト消費へ重点が変化しつつある消費者ニーズに海業が応え得ると説明した。
一方、盛漁期の漁業者は海業への従事が難しい部分もあるなど、生活を優先させる上での実情も指摘。人材や用地など地域の特性を見極め、事業規模や目標に応じ民間企業などの協力を仰ぐことがリスク分散にもつながるとした。
大分大の亀岡准教授も、既存の地域資源を生かしての多角化や外部企業などとの連携を重視。優良事例として挙げた和歌山県太地町では、古式捕鯨発祥の地という利点を生かし、漁場としての重要度が低かった森浦湾に鯨・イルカを放畜し観光業につなげた。漁業との利益相反が少なく、湾内でのカヤック体験は民間企業の事業を承継したため新規事業開始の負担が軽減できた。
この他、水産業を軸とした多角化には、「小さな成功の蓄積と失敗の許容」が有効とも説明した。大阪府の田尻漁港では小規模の朝市から漁業体験などに拡大し、かつ漁業体験の雨天や不漁時の対応として釣り堀やカキ小屋も経営。リスクヘッジを図りながら小規模な成功例を伸ばした点を評価した。
[みなと新聞2024年1月18日18時20分配信]
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