みなと新聞

【みなと新聞】持続可能性を付加価値に 『水産未来サミットを振り返る』(下)

2024.06.04

 3月に宮城県で開かれた「水産未来サミット」(実行委員長・津田祐樹フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング社長)を振り返る連載の後半。参加者から多く問題提起があった、資源や環境の持続可能性に配慮した水産物への付加価値化が今回のテーマだ。消費者から持続可能性への価値を認めてもらうべく、啓発活動に意欲を燃やす声が続出。一方、持続可能性への説明責任を果たす業者に優先的に投融資しようという金融業界の潮流に乗る、持続可能な操業のためのコストを国主導の基金で賄うなどの提案もあった。

消費者啓発や資金確保が鍵

 序盤は漁業管理を強め水産資源を回復させるべきとの意見が多数寄せられ、後に「少なく獲って、(魚価向上で)稼ぎを上げるのが良い漁師」という漁業者や、「(魚の)価格を上げ、買って支えるふうにしないとなかなか(獲り控えは)できない。漁業者だけでなく魚を売る人、食べる人が考えなければ」という漁業者や識者からの意見が出た。

 複数の参加者は、食用として価値の付かなかった魚種の商品化、MSC(海洋管理協議会)をはじめとしたエコラベル認証の取得など、資源や環境の持続性確保と魚価向上の両立を目指す取り組みを紹介した。

 一方、日本の消費者の持続性への関心が他の先進国と比べ高まっておらず、資源管理に熱心な漁業や二酸化炭素の排出抑制などに相応の対価を払う体制が整っていないという見方でも多数が一致。「(持続性にかかわらず、コストが)安ければ良い、となるのが豊かな海をつくれない最大の理由」との提起や「多少価格が高くなっても、(持続性に配慮したものを)買うと消費者アンケートで出た。変化が出ているのかも」との期待も上がった。

 業界側にできる努力としては、商流の川上と川下の間の連携・情報交換を上げる声が複数聞かれ、「意識の高い流通業者が道の駅をつくって(消費者を直接啓発して)は」というアイデアも出た。川下側への理解啓発に際し、川上と川下をつなぐ流通業者の活躍を重視する意見もあった。

 ある民間からの登壇者は、世界の金融業界が、持続可能性に配慮する事業者に優先的に投融資しようという自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)などの動きを進めていると紹介。環境や社会の持続可能性への配慮について、情報開示し証明できる事業者が、今後、株価などの面で優位に立てると展望した。

 学識者からは、太陽光発電の技術開発や普及に向けたコストを捻出するために、早めに発電設備を導入した人の電力を政府が高額買い取りした経緯を例示。同様に、持続可能な魚を高額買い取りできるよう、政府による基金創設の提案があった。実行委は、提案を政府へ直に呼び掛けたいと意欲を示した。

 この識者は、今年の米大統領選で、環境政策に否定的なトランプ氏の当選が有力視される現状にも言及。気候変動については、産業界や市民コミュニティーが熱心なため、大統領選の結果にかかわらず後退しないと予想しつつも、海洋環境保全では「コミュニティーが育っていない。米国がリーダーシップから外れる可能性がある」と分析。裏返すと日本をはじめアジア諸国がリーダーシップを握るチャンスでもあるとした。他の参加者からは、若い層が主導権を握れているインドネシアなどは、海洋保全の気風が強いという情報もあった。

[みなと新聞2024年6月3日18時10分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/

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