スマート化により、操業効率の改善やコスト削減がかなう例が出ている。
Summary
漁場選択、市場連携通じ
漁労経験値を伝承 付加価値化にも
オーシャンソリューションテクノロジー(OST、長崎県佐世保市)のサービス「トリトンの矛」は、漁業者の「資源を守りつつ、いつ、どの魚を、どの漁場で、どれだけ獲るべきか」の判断の高度化を目指す。漁船位置の衛星情報・海水温・操業回数・時間が手軽に記録でき、海況条件に加え、今後は市況などシステムにたまっていくデータを人工知能(AI)で分析、漁場や水揚量を予想するためだ。漁場予測で若手漁業者がベテラン水準の漁獲を実現した例もある。
船団束ね効率向上 トレサ入れPRも
ライトハウス(福岡市)のサービス「ISANA」は、多様な漁業データを整理し巻網や引網の船団の漁場探索を助ける。複数の漁船でリアルタイムの魚群探知機やソナー、航跡などのデータを共有可能。好漁場を選び、その漁場に無駄な燃油を使わず各船が向かえる。従来電波の届きづらかった沖合域でも今年米国スペースX社の衛星を用いた「スターリンク」によって、従来1000万円近かった初期費用を数十万円ほど、数十万円した月額使用料を数万円台で利用可能に。大中型巻網などの漁船の連携へ普及が進みそうだ。
情報を付加価値に 実証の例も
トリトンの矛やISANAのシステムを活用し実証販売した例もある。魚にQRコードを張り付け、漁業者の素性や持続可能な操業などに関する思い、漁場位置、加工工程などを消費者にPR。付加価値化を目指そうという発想で、今後のニーズ拡大が期待される。
定置などデータ化 コスト削減に一役
北海道斜里町のサケ定置網では、日本事務器(東京都渋谷区)のサービス「Marine Manager +reC.」によってデータを収集・活用している。各定置漁場に設置した流向・流速計で、漁業者は陸から「この流れだと網を起こせない」などと判断でき、漁の“空振り”防止やコスト削減に寄与。また漁業者向けのスマホアプリを通じ、各漁場から市場に水揚量を速報。市場は速報に合わせ、氷や運搬車両を用意でき、買受人も集まりやすくなっているという。
その他、国内の定置網では、魚群探知機やカメラによって網内の様子を遠隔から観察し、網起こしの可否や漁獲量を予測する事例が複数。海況情報の活用事例としては、九州大の高精度海況予報を基に漁場を選び、燃油代削減や漁具流出防止を図る延縄船団もある。
漁獲報告を手軽に 効率や資源も把握
滋賀県行政が運用するスマホ向け漁獲報告システム「湖レコ」は、琵琶湖で許可漁業を行う漁業者500人以上全員にアカウントを付与。うち2割程度が利用している。行政への報告義務のある魚種別漁獲量などを漁協での事務作業を通さず行えて、各日の漁場位置も記録可能。漁業者側はどのような日にどの漁場で狙った魚を獲りやすいか判断しやすく、行政は各魚種の資源量や資源管理の状態を把握しやすくなっている。
需要に応え増収 市場との連携にも
水産大学校(山口県下関市)の開発したタブレット端末用アプリは、下関漁港を拠点とする沖合底引網全船と市場を結ぶ。漁船には、その時々で市場ニーズの高い魚種を調べて狙える▽水揚金額を精緻に予想できる▽操業日誌の記入の手間が減る上に日誌と漁場データを自動でひも付けて振り返れる―などの恩恵があり、1航海当たりの水揚金額は2019~22年にかけ6割増。市場側にも、漁船の入港前の時点で魚箱などの資材を過不足なく資材を準備できる▽漁船側に入港してほしいタイミングを知らせられる―などメリットが出ている。
安全性向上へ船に“カルテ”
ライトハウスのサービス「フネカルテ」では、長期間寄港できない漁船の機器類にセンサーを取り付け、回転数や圧力などの異変を早期に察知。漁船によっては出港後の機器類の不調・緊急寄港によって数千万円単位の損失が出ることもあるため、この防止が目的だ。簡易版として、船を離れている機関士が遠隔から機器類をチェックできる「フネカメラ」も今年商品化を予定する。
[みなと新聞2024年6月20日18時10分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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