みなと新聞

【みなと新聞】日本の市場システム強みに 『スマート漁業特集/資源の把握と管理』

2024.06.24

 日本沿岸・沖合の漁獲量は2022~23年に300万トンを下回り過去最低を更新。ピーク時(1984年)から7割減った。主要資源の多くが減っているとみられ、政府は漁業管理による資源・漁獲の回復を目指している。そして水産資源の把握や管理に情報通信技術(ICT)は役立つ。

東南アジアでも普及後押し
資源量や分布把握

 例えば「この海域で、あの魚種を何トン漁獲するため、何時間網を引くこと(漁獲努力量)が必要だった」と分かると「その海域にどれだけ資源がいる」の指標となる。漁船がいつどの海域で操業したかは、船舶監視システム(VMS)などで航跡を記録すれば少ない労力で検証できる。

 ICTによる資源量推定の好例として、乱獲状態だったナマコ資源の実態を把握し漁獲を抑え、6年で4割以上回復させたはこだて未来大学(北海道函館市)や新星マリン漁協(同留萌市)などの連携が挙がる。

 魚種別漁獲量などの記録を助けるべく、手書きより手軽に入力可能なスマホアプリを、複数のIT企業が開発している。

 漁獲努力量の測定にも複数の企業が取り組む。オーシャンソリューションテクノロジー(OST、長崎県佐世保市)は精度向上を意識。漁船の機器で得た位置情報と人工知能(AI)で、漁業者の操作なしに努力量を自動推定する。「船が移動しているのか操業しているか、高精度で判別可能。資源の増減を把握し、洋上風力発電所の資源への影響なども検証できれば」と同社。

 近年は魚群の居場所に加え魚体サイズ・尾数まで推定する高性能魚群探知機も発達する。またSIIG(新潟県佐渡市)のスマホアプリでは、撮影した魚体の種類とサイズをAIで自動判定。可能性の高い上位3魚種を表示する格好で、対応魚種は今年、昨年より倍増、500を達成予定だ。こうした魚種判別を使えば、知識に自信のない人でも漁獲物データを研究機関などに提供しやすくなる。

 技術を活用すれば魚のサイズ(年齢)別資源量の正確かつ迅速な把握につながる。資源が大発生した年には政府からの漁獲可能量(TAC)を迅速に増枠するといった議論も容易となる。

 本来、SIIGのアプリは遊漁者向きで「釣り人個々の釣獲データは限られるものの、気候変動による魚の分布域変化などを追うには役立つはず」(同社)。

規則順守を監視

 漁船が操業規則を守っているか、行政が確認する際にもスマート技術が貢献。漁船の位置情報や漁具の動作をセンサーで捉えて操業活動を把握できれば、禁漁区への入漁や、漁獲規制対象種の漁獲を隠蔽(いんぺい)する目的の監視員のいない場所への水揚げを防げる。漁獲隠蔽目的の魚体投棄を防ぐため、漁船に動画カメラを置く例もある。電子監視は欧米のみならずアフリカなどでも拡大する。

 電子監視を早期に導入した例にタイ国もある。「自国の漁業管理が透明性をもって行われていることをアピールし水産物の輸出を促進した」(海外漁業協力財団・藤野忠敬氏)ことに加え、金融機関からの信用性獲得にも活用。同国水産大手・タイユニオンは、原料調達先の電子監視の拡大などによって利率の低減される「サステナビリティ・リンク・ローン」を日本の第一生命とみずほ銀行、三菱UFJ銀行から受けている。

 電子監視は国際的な管理機関でも義務化の検討が進んでおり、ライトハウス(福岡市)は農林水産省中小企業イノベーション創出推進基金の支援を受けて、国内のマグロ船向きのシステム開発を進める。

日本に潜在力

 日本事務器(東京都渋谷区)は、今後、漁業者が操業中にスマホアプリ上のワンタッチ操作で操業の開始・終了時刻を記録できる機能を北海道などで実装予定。アプリに記録される操業時刻と位置情報、各種操業データを組み合わせることで、漁獲物の出所の透明化・密漁撲滅につなげたり、各地の資源の増減や漁業管理効果の検証に役立てたりする構想もある。

 こうした漁業データの収集は漁船数の多い国ほど徹底が難しくなるが、わが国は漁船が多いながらも実現の期待が持ちやすい。日本各地には漁協と魚市場があり、そこに水揚げが集中。わが国とインド洋沿岸国のデジタル技術を用いた漁業統計収集を調査した経験を持つ藤野氏は日本の現状を「市場で漁業者個々の水揚げをリアルタイムに第三者が確認するシステムが、現在、構築されつつある」と評する。

 インドネシア政府も資源管理や納税のため、各漁船の漁獲を把握したい立場。一定以上のサイズの漁船に登録制を敷き、行政指定の港でのみ水揚げ可能としそこを監視する、日本に近い格好の管理を進めつつある。

 OSTは日本企業ながら、国際協力機構(JICA)事業を通じ、同国で低コストな漁船位置データ収集方法を開発中。「同国政府はこの収集方法を小型漁船にも搭載したい考え。小型漁船ではトイレなどプライバシーの問題からカメラ監視が受け入れられづらいが、当社サービス『トリトンの矛』の位置情報システムだけでも、漁場規制やTACの順守、魚種別の資源量把握など進展を期待できる」(OST)

 さらにインドネシアで開発した低コストなシステムを「他のASEAN(東南アジア諸国連合)諸国にも知らせていければ」(同)と展望。インドネシアについて「政府が漁船への位置情報システムの搭載義務化に積極的。実現すると、必要な機器類も法定備品として量産できるため、単価が下げられる」とも付け加え「日本でも、政府レベルで、小規模漁船も含めたIT普及をご検討いただければ、漁船は海の環境や資源の増減、他国船舶の動向などを知る“センサー”になり得る。メリットは大きいのでは」と提案する。

 一部国家が途上国の船舶に衛星サービスを提供し、海洋のデータを囲い込む可能性が指摘される今、日本としても、漁船データの収集や友好国などとの知見共有といった戦略性が重要となりそうだ。

[みなと新聞2024年6月20日18時10分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/

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