みなと新聞

【みなと新聞】政府に求められる積極主導 『スマート漁業特集/実装への課題と対策』

2024.06.24

漁業をスマート化する際、現場にはある程度の手間や出費など負担がかかる。負担よりメリットが上回るという実感が、実装化の鍵だ。

現場負担抑えメリット感を
所得増の展望共有

 スマート化による漁場探索の効率化やコスト低減など、実装後の早い段階で所得増が見込めるケースでは、漁業者はメリットを感じ積極的になりやすい。ただ、資源のデータを集め、漁業管理して資源を増やす場合は所得増に数年が必要で、メリットをイメージしづらい場合も。

 数年後の所得の増加や安定など、未来のメリットを漁業者のみならず行政、IT企業が共有して導入の機運を高めることが実装につながる。また、スマート化による資源管理などを消費者にPRし、魚価向上を狙う取り組みもある。このように実装を後押しする機運づくりは、水産業界内部にも求められよう。

作業の軽減

 スマート漁業の基礎となるデータ収集だが、漁業者にとって負担や抵抗感を伴い得る。現場に寄り添った対策が重要だ。

 余計な作業が漁業者にかからぬよう、集めるべきデータ項目を科学者や行政が過不足なく選び十分周知する必要がある。

 データ項目を選ぶ際、秘密の保護も大切。例えば漁業者からみて、魚価や漁場形成の速報を商売敵に渡すことはビジネスを妨げる。項目ごとに「行政にしか見せないもの」「一定期間を置き公開するもの」「すぐ公開するもの」を分ける、センシティブなデータを漁業者から受け取る人(研究者や企業など)が漁業者とデータ保護に関する契約をしっかり結ぶ、などの工夫が求められる。

 全ての漁業者が報告すべき=提出を義務化すべきデータ(例:漁獲量規制の順守証明など)、一部の漁業者から集めれば良い=提出義務は不要なデータ(例:資源量分析に必要な詳細な漁獲努力量や魚種別サイズ別漁獲量など)などを、丁寧に仕分けし扱いたい。

 漁業者の負担を減らすためIT企業側の役割も重要。データの収集や活用を行う漁業者向けスマホアプリなどは、より手間なく使える必要がある。日本事務器(東京都渋谷区)はアプリに手軽なメモ機能を実装予定。操業中に気になったことを日時別で記録し漁場の位置情報とひも付けたり、スマホカメラの文字読み取り機能と組み合わせて魚種別漁獲量や魚価など紙ベースのデータをメモしてパソコンに転送したりと、必要なデータを面倒な操作なく整理できるよう意識する。

行政の支援

 スマート化に必要な機器類などに慣れていない漁業現場には、伴走者となる人材が重要。水産庁は各地の県行政や漁連にスマート化に必要な知識を持った人材の育成・供給を目指す事業を今年度立ち上げている。

 また本特集の通り、スマート化や、それによって集めたデータの分析などのコストを漁業者等の民間よりも国が積極的に出すべきとの意見は水産やITの業界に多い。環境や資源の異変を把握し、持続的に魚が獲れるよう管理することは、国益にかなうという発想。議論の余地はあろう。

 官の支援ではその他、海上の通信環境も一考。携帯電話の回線が4Gから5Gへと更新されると電波の届く範囲が狭まることなどから、電波塔などの整備も時に論点となり得る。

[みなと新聞2024年6月20日18時10分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/

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