持続可能な水産業のあり方を議論し政策提言すべく、農林水産省OBなどが発足させた有識者組織「チャタムフィッシュ」の事務局が9日、水産庁で会見し、漁業を株式会社化して民間からの出資を募ることで、長期視野での資源回復と経営安定化を目指すアイデアを提案した。短期での返済を迫られやすい融資ではなく出資金を生かすことで、厳しい漁獲規制が続く際にも漁業経営を守る、大きくて安全性の高い漁船を導入する、漁法ごとの漁船数を適正化する、といった構造改革を進めるもの。提言は水産庁に提出したが、「基本的には水産業界に対するメッセージだ」(事務局の宮原正典元水産庁次長)。
現状、長期的に国内の漁獲を高めるため、漁獲規制による水産資源回復が必要とみられる。ただ、規制で漁業者が減収した際に補填(ほてん)する漁業共済や国の収入安定対策事業は、過去5年の実績収入に応じて払われる。長年厳しい漁獲規制が続くと、実績収入と補填金が下がっていき、漁業経営を守り切れない。
今回の提言は、資源の回復と採算性確保に向けた漁業の株式会社化だ。漁獲規制で収入が減っても漁業経営を行き詰まらせないため、新たな資金源を模索。資源が回復するまで数年単位の時間がかかる前提で、金融機関からより短い期間の返済を求められやすい融資ではなく、出資者に配当金を出すまで年単位の猶予を得やすい株式が適すると分析した。
株式会社化による漁業者と株主双方への利点を説明。漁業者が株主から事業計画を求められることで、長期的な経営を構想しやすい▽責任の所在がはっきりして経営上の意志決定を迅速化・明確化しやすい▽責任の経営感覚のある株主側から漁業者に助言が得やすい▽株主側は、金銭的な配当のみならず、需要の逼迫(ひっぱく)が予想される水産物を優先的に購入する権利や、ESG(環境・社会・企業統治)投資の実績を得られる―などを見込んだ。
株式会社化のメリットを生かしつつデメリットに対処するための、会社の運営方法も考案。漁村が外部の地域や国家に乗っ取られる展開を防ぐため、地元漁業者が漁船などを拠出して株の過半を保持する▽持続可能な経営計画を10年以上単位でつくる▽漁獲可能量(TAC)制度などに基づき実効的な獲り控えを行う▽複数の漁業者の協業化や合併を促進してより広範囲での連携を促す▽環境や資源の実態より過大となった漁業の漁船・人材について、政府の支援策を生かしつつ、採算性のある漁法への転換や休漁・減船を進める▽気候変動による海況変化を鑑み、より大きく安全性の高い漁船を導入する▽休漁中の漁業者の減収を、政府の藻場造成事業などで補う▽資源管理の効果を高めるための調査を漁船の用船によって行う▽クラウドファンディングで消費者に水産物や体験を提供しつつ資金提供を受ける―などを示した。
漁業の株式会社化を促進するため、国に期待される役割も解説。漁獲情報や資源管理策の実効性を可視化する▽資源回復と漁業経営の損益分岐点を分析・公表する―などを挙げた。国がTACの一定割合を漁業経営体個別に割り当てるIQ方式を採れば、株式会社の漁獲シェアを確約でき、資源とTACが増えた際の売り上げ増が期待しやすいため出資を募りやすくなるとも展望。TACやIQが整備でき、かつ獲り控えで資源回復が期待できる魚種に、株式会社化の恩恵が大きいと期待した。
事務局は「漁業に対する『もうからない産業、外部から資本が集まらない』というイメージを払拭(ふっしょく)し、稼げる漁業のモデルをつくりたい」と意気込んだ。
チャタムフィッシュと、農水省OBらが事務局を務め水産業界内外の有識者からなる委員会。急激に進む環境変化や漁業の衰退に対応すべく、メンバーや議事録は原則非公表とし、多様な立場の識者が数人ずつのグループ討論を繰り返すことで本音で議論する。
[みなと新聞2025年1月10日18時10分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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