東京水産振興会(渥美雅也会長)は14日、豊海センタービル(東京都中央区)で講演会を開き、水産資源経済学が専門の武蔵大経済学部の阿部景太教授が「ノルウェーサーモン養殖の経済学」をテーマに講義した。オンラインを含め約270人が聴講した。講義の模様は後日、ユーチューブで配信する。
講義を受けて、東京水産振興会の長谷成人理事は「ノルウェーの養殖業にも停滞の過去があり、小規模の5000トン未満の事業者へ政策的な配慮など、日本とはスケール感は異なるものの、行政として同じような発想で施策を進めてきた経緯を知った」と感想を話した。全国海水養魚協会の中平博史専務は「ノルウェーと日本は養殖産業の背景が異なるが、国は養殖業の成長産業化を掲げ技術開発を進めており、日本の養殖業も今後産業として伸びる」と述べた。
阿部教授はノルウェー経済高等学院で研究員として修士向けに漁業と養殖の経済学について講義した経歴がある。阿部教授は「ノルウェーではビジネススクールで養殖業を学び、養殖業を産業として研究が進んでいる点に驚いた。学んだ優秀な学生が養殖業に就職する。日本の養殖業もノルウェーのような成長産業にしていきたい」と話した。
講義の概要は次の通り。
■略史
ノルウェーでは古くからサーモン漁が行われており、1960年代に養殖の試行が開始。デンマークでニジマス養殖に成功したがノルウェーは欧州市場へのアクセスが不利で失敗した。
70年代から海面養殖が始まり、同時期のニシン禁漁により漁業者が養殖産業への転換も好材料となった。73年に政府が1業者1ライセンス制を導入した。
生産量は80年の8000トンから90年に16万トンと急成長した。飼料などの技術開発に加え、ライセンス当たりの放養密度上昇を規制緩和したことが大きな要因となった。
だが急拡大した弊害で85年以降に感染症が拡大。あわせて生産量ほどに需要が伸びず、販売組合を通さない取引が横行し、現在の個社での販売につながった。88~91年に約2割の181業者が倒産した。
停滞期を経て90年代は再編期となる。92年から複数のライセンス保持が解禁となり、業界内の合併が始まった。90年代後半は29社が全体の半分以上の387ライセンスを保持する大規模化と、レロイやパン・フィッシュなど上場企業が現れた。2000年代には再編により大規模グローバル企業群へと変貌した。
■ライセンスの高騰
ライセンスは売却や担保にすることができるがリースは不可。最大許容バイオマス(MAB)として規制している。ライセンスはかつて無償で所有者間では有償取引されていたが、02年から新たなライセンスは有償で発行となった。02年は500万ノルウェークローネだったが、13年に1000万クローネに上昇。18年からオークションとなった。24年のオークションは1トン当たりの最低価格が17万クローネで、1ライセンス(780トン)換算だと約18億6780万円に高騰している。
■実質の「資源レント税」は3%程度
サーモン養殖に課税する「資源レント税」について成り立ちと仕組みを詳細に解説した。23年9月から実施された資源レント税の実行税率は25%で、ノルウェーの法人税22%と勘案すると実質の資源レント税は3%程度にとどまっている。9月の国政選挙の結果次第でレント税を含めて動きがあるか注目される。
また陸上養殖については22年にライセンスの新規発行を停止していたが7月に条件や規制を明確化して再開した。
[みなと新聞2025年7月15日17時50分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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