みなと新聞

【みなと新聞】研究の迅速化と精度焦点 データ、人員確保が鍵 【連載】不確かな環境に挑む〈2〉

2025.07.28

 多くの魚種の減少に海洋環境の変化が関係している。太平洋のサバでは環境変化が読めないことによる科学への不信感などから、漁獲規制を緩めるという判断に至ったが、本来減った資源には漁獲を抑えて回復を早める必要が高まる。過不足なく漁獲を抑えるには、環境の変化やその資源への影響を迅速に把握することが大切。ただし現状は把握に年月がかかり、精度にも不安が残る。打開の鍵となるのは、研究機関の人員不足・データ不足の解消だ。

科学の不確実性低減へ努力を

 昨年度の資源評価で、水産研究・教育機構の分析で資源の激減が認められた太平洋系のマサバだが、実は数年前から減少を指摘する漁業者は少なくなかった。

 〈リアルタイムデータの組み入れ〉
 現状、研究者が漁獲可能量(TAC、漁獲枠)の案を算出する際、①海にいる資源の量などを、前年までの漁獲データや当年の調査船のデータを基に評価する②資源評価を基に翌年の枠を計算する―という流れとなっており、データを集めてから漁獲枠に反映されるまでに2年のタイムラグがある。

 つまり、リアルタイムで魚影が見つからない年でも、2年前、魚影が見えていた当時の過大な枠が設定されることになる。2年後、やはり想定ほど資源はいなかったと明らかになっても、それに合わせて漁獲枠を急減する展開になれば、すでに設定された過大な枠との落差が激しいため漁業者に受け入れづらい。

 資源評価の中枢を担う水研機構は、2028年までに、ほぼリアルタイムで漁協の販売データや漁港の画像解析データ、漁船からの魚探データを集め、それを活用して資源評価を修正できる体制を目指す。これらのデータを人件費を抑えつつ集めて分析するため、人工知能(AI)開発などスマート化が課題となる。

 南米、北欧などではリアルタイムに近いデータをその年の枠に反映させる計算方法や体制がすでに実装されている。これらの知見を得つつ、日本の政策に反映させる方法を練り、関係者からの理解と協力を得ることが重要であろう。買価の付く魚が多そうな漁場に集中する漁船だけでなく、ランダムに魚を獲る調査操業のデータも大切になる。

 〈環境変化の迅速な把握〉
 海洋環境の変化で既存のデータが当てにならなくなっている点も課題だ。現状、水産資源の産卵量や増減は、資源それぞれの成長・成熟の早さや、自然界で魚が生き残る確率、漁場への出現などから予測するが、これらが気候変動で変わってきており、データの収集と更新が間に合っていない。海洋環境の異変をより早く察知し、資源評価がズレ始める兆候を早期に警戒する必要がある。

 魚体の成長や生き残り、資源量予想に影響しやすい要素に、餌プランクトンの豊富さがある。水研機構は気候変動によるプランクトンの減少を問題視。30年までに、資源評価に餌環境を考慮できる体制を整える方針を示している。

 魚体の成長や成熟の異変を追うに当たり、人員不足がネックとの証言も機構内から目立つ。各地の機構の拠点や各都道府県の人員不足が深刻化し、多くの魚体を解剖しデータを迅速に反映するのが難しいという。

 〈海域ごとの“養える資源量”や分布の考慮〉
 気候変動は今後数十年、収まらない見込み。仮に気候変動によって餌プランクトンが少ない状態が慢性化すると、日本周辺の海が養える水産資源の量も減ってしまう。かつて10の資源を養えた海域で安定的に4程度の漁獲ができていたとしても、今その海域が5しか養えないとすれば、2程度まで漁獲を絞らないと過剰漁獲に陥るだろう。つまり、目指すべき資源量の目標や、そのうち獲ってよい量を見直す必要が出てくる。

 逆に、資源量が過小評価され、必要以上にTACが削減されてしまう展開にも注意すべきだ。一部の魚種は、表層で操業する巻網や釣の漁獲が激減中。一方、深場で操業する底引網や北側の漁場では漁獲の減り具合が比較的緩い場合も。魚が水温上昇を受け、水温の低い深場や北に移動することはあり得る。従来は漁獲の多かった表層の漁業だけでなく、低層や北の漁業からもデータを集めて資源量を推定しないと、資源量を過小評価してしまう危険がある。

 以上のような課題に対応するため、水研機構周辺や農林水産省OBからは、研究予算と人員の確保、漁業者からのデータ提出義務強化を求める声が相次ぐ。加えて研究者が漁業者や行政官に本音を言いづらい気風も問題だ。この実情と対策は今後考える。

[みなと新聞2025年7月24日17時50分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/

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