【青森】農林水産省OBなどが組織し、持続可能な水産業の実現に向けた政策提言などを手掛けるUMINEKOサステナビリティ研究所(USI、札幌市、粂井真代表)は9月、青森県の日本サーモンファーム(深浦町、鈴木宏介社長)など水産現場を視察した。同社における、アジア市場をにらんだ計画的なサーモントラウトの増産や、そこに向けた作業の効率化と従業員の安定雇用の両立などについて聞き取ったもの。同行した本紙記者が内容をリポートする。
効率化徹底、コスト低減

日本サーモンファームは現在、県内に稚魚を育成する中間養殖場を3カ所、海面養殖場5カ所構え、「青森サーモン」を生産。稚魚育成に用いるミネラル豊富な淡水や、海上いけす周辺の対馬海流が育む、身の締まりと脂のりを売りにする。
特筆すべき点に、今年3500トンという大規模生産体制がある。現時点で出荷量の多くを冷凍せず生鮮でも流通。5年後の生産目標1万2000トンは「国内で発表されている計画でも最大規模」(同社)で、年7万トン程度とみられる国内の生食サーモン需要の中でも際立つ。生食可能な養殖サーモンのうち、世界の生産の6割以上はノルウェーとチリに依存し、日本の生食需要も大部分が輸入に依存する現状。ここに風穴を開け、さらに輸出まで狙える、まれな存在となっている。
ノルウェーやチリの養殖生産量は、養殖適地や餌などの制約から、近年、計200万トン台後半で頭打ちとなっている。同社は「世界的な需要に比べ、供給が追い付いていない状態」と増産を急ぐ。特に、北欧や南米から遠く、経済発展も著しいアジア市場を意識し、「生鮮品を輸出するには、日本に地の利がある」(同社アドバイザーの野呂英樹氏)とみる。
アジア市場をにらむ展望は、2017年の設立当初から。オカムラ食品工業(青森市、岡村恒一社長)出資の下、生産・加工・流通の経験豊富なホリエイ(深浦町、堀内精二社長)の知見を生かし、年間生産量は当初10トン、50トンと推移したが、急増を実現。今年の3500トンのうち、2割を台湾やマレーシア、タイ国、シンガポールなど海外へ出荷した。青森県今別町の海面養殖場では、サケのASC(水産養殖管理協議会)認証を日本初取得しており、エコラベル認証を要求する市場にも対応し得る。
大規模化に向け、重要になるのがコストの低減だ。海面いけすに移す前のサーモン稚魚は、低温で清浄な淡水で中間育成する必要があるが、育成に見合う水温や水質を水槽で実現するには、多額の電気代がかかる。同社は地元・白神山地からサケの成育に合う川から水を引き、電気代のかからない簡易的な処理だけで活用可能。設立当初、川の水で実際に育成ができるのかの実証には、農水省の補助金を活用した。

大規模化・省コスト化に向け、大型のバージ船(自走しない浮き船)も導入。自動給餌機と1週間分程度の餌、パイプを設置して、遠隔操作で空気圧をかけることで、各いけすに餌やりができる。導入には、農林中央金庫などが組織する農林水産業みらい基金からの助成を活用した。
海面いけすを使うのは、サーモンが健康に育つ低水温期。11月ごろに稚魚を入れ、水揚げは4~6月ごろにまとめて行う。フィッシュポンプで生きたまま揚げた魚体に、スタンナーを通して電気ショックを与え、仮死状態で血抜き。高鮮度処理に向けた作業負担とコストを低減し、大量の生鮮出荷を支える。徹底した効率化で「魚粉や資材高騰の中で、コストをかけない方法を模索しつつ品質を保っている」(野呂氏)。
[みなと新聞2025年10月17日17時50分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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