
日本沿岸沖合の漁獲量は2022年以降300万トン未満で、ピーク(1984年)の3割を割った。2025年度時点で主要88資源の6割弱は「親魚不足」か「低位」。多くの魚は、漁業者が1回操業した当たりの平均漁獲が減っている。つまり、漁業者の数より資源の減少が深刻とみられる状況。加えて大部分の魚種は資源の増減の原因究明も進んでいない。気候変動などで海の環境が激変する中、今後、どの魚がもっと減り、逆にどんな魚が増えるかも不透明感が増す。しかし、この苦境を打開すべく、全国では海洋環境の回復や漁業管理に向けた前向きな動きが進む。ICT(情報通信技術)を活用したスマート漁業など、画期的な取り組みも生まれつつある。各地の現状から考える。
科学の厳格活用で成果
国でも地域でも実例

■ 漁獲量の制限 ■
水産資源の減少や、海洋環境が変わることによる魚種の変化が目立つわが国。だが、厳しい現実に立ち向かう人々が、各地に現れている。
水産資源の管理というと、最初に話題に上がることが多いのは漁獲量の制限。確かに、数量という分かりやすい物差しで行うので、地域や漁法が異なる漁業者全員で足並みをそろえやすい▽その時点での資源の豊富さや、自然界に獲り残して産卵させるべき親魚の量などを科学的に検証しながら行いやすい-などの利点は大きい。
政府として1997年に全国への漁獲可能量(TAC)制度を導入した当初は科学者の勧告より緩かったり、枠で守られている魚の種類が少なかったりで効果が出ない時期も続いた。だが2010年代には日本海北部のスケソウダラなど、難しい現場調整を乗り越えて厳格な枠を設定し、資源が改善する例が出ている。太平洋系のマイワシやマサバは、近年は他国と連携した漁獲制限がまとまらないこともあり漁獲圧が再度高まっているが、一時期は漁獲割合の低減と資源回復がみられていた。
日本海西部のズワイガニは、漁業者と科学者らの丁寧な対話を通じて漁獲圧と資源が安定する。太平洋クロマグロでは、厳しい漁獲で資源が急回復し、むしろ枠の拡大が追い付かないという逆の問題も。資源が減った時に獲り控えるだけでなく、増えた時にどう増枠するかというテーマは次の大きな課題だ。だが、科学的に厳格な漁獲量制限をすれば、資源の回復効果を期待できることは確かといえよう。
地域の漁業者の自主的取り組みでも、漁獲数量管理の成功事例がみられる。特に目立つのが北海道で、留萌のナマコ、苫小牧のホッキガイなどは管理後に資源が改善した。野付湾では、ホッカイエビについて水産試験場の助言に基づき十分な産卵群を残す量的管理や、9センチ以上でないと獲らないという規則を徹底。自然環境が不安定な中でも10年代以降の同種の水揚げは一定の範囲内で安定する。
同湾ではアサリについても、生息場となる砂地の造成や、値崩れを防ぐための漁獲量制限を実施。高水温・大量へい死が起きた23年まで安定した漁獲量を誇った。
「獲り方」の工夫有効に
漁業者による環境修復も
■ 数量以外の好事例 ■
漁獲量管理には弱点もある。大きいのが、枠を守りたくても守りづらい漁業の存在。特に日本では、狙っていない魚種を混獲し、その魚の枠を消費しやすい漁法(例・定置網、一部底引網など)が多いとされる。枠を消費して他魚種狙いの出漁まで強く制限されると、漁業経営に響く。マグロやサワラのように、網に体が擦れるだけで死にやすい魚種もいる。食用魚種が数百ある中、すべてに対して「どれだけの親魚を獲り残すべきか」高精度で算定するにはコストも高い。全ての魚種や漁法で、漁獲量を制限しきるのは難しい。

ここで期待されるのが「獲り方」の管理。例えば出漁を制限した例として、航海日数や1日当たりの入港隻数を限定しメカジキやヨシキリザメの過剰供給を防いで、魚価向上にもつなげた宮城県気仙沼遠洋漁協近海マグロ延縄船団▽キンメダイ漁で操業は1日4時間まで、漁法は立縄のみ、産卵期は禁漁、全長25センチ以下の個体は再放流などの措置を講じ、他県と比べた漁獲量の安定が光る千葉県沿岸小型漁船漁協-などが知られる。
産卵魚や小型魚の保護には、応用の余地が大きい。魚体が痩せて小さいことが多いため1尾当たりの価格が安くなりやすく、産卵前に獲ってしまうことは子世代の発生も減らしやすい。代わりに脂のりと単価の良い個体を狙うことは、漁業者自身、経営上の意義を実感しやすい。
実例には、スズキなどで小型個体の放流、産卵期休漁などの自主的措置を行う千葉県船橋市の巻網船団▽ミズダコ小型個体の再放流や漁具数制限を行う北海道の北るもい漁業者ら▽未成魚サイズを禁漁して高級魚・シロクラベラなどを回復させた沖縄県北部の潜水漁-などがある。
山口県室津の定置網では昨年、重要魚種6種(イシダイ、マダイ、ヒラメ、クロダイ、コショウダイ、スズキ)を主眼に、漁獲サイズ制限と小型魚再放流のプロジェクトを始動。県行政と連携して資源量指標値などを評価し、これに基づいて管理措置を継続的に見直していく。狙っていない魚種が入網しやすく資源管理の難しい定置網だが、再放流しても生き残りやすい魚種に関しては、小型魚の再放流を、各魚種の生息域全体で行えれば、効果が期待しやすい。近い事例として、静岡県や三重県などの一部定置網でのブリ幼魚の再放流もある。
小型魚保護の輪には広がりもみられる。島根県の沖合底引網は15年から全船(現在3カ統)が、ノドグロ(アカムツ)のうち商品価値の低い小型サイズの混獲を回避。主力漁場のうち小サイズが一定量以上獲れたエリアを一定日数禁漁する。

近年小型ノドグロも魚価が高まったことなどがあり、措置開始後(9年間)の小型魚の漁獲量は開始前(同)の2・9倍と大型魚の1・5倍より増えているのも事実。ただ、同漁場を共有する山口県の沖底漁船全6カ統も小型魚保護の必要性を認識し、23年から島根との協議を開始。25年、山口が取り組みへの参加に至った。今後、資源と漁獲の持続に期待したい。
小型魚の保護と、人工繁殖した稚魚の放流(栽培漁業)を組み合わせることで、激減していた資源を改善できたのは、瀬戸内海のサワラや石狩湾のニシン。栽培漁業には近年、効果の薄い事例が目立つこと、魚の遺伝子劣化・放流魚同士の生存競争による弊害なども懸念されるが、極端に少なくなった資源を底上げする効果には、一考の余地がありそうだ。
稚魚、特に沿岸性の魚種の成育には、藻場や干潟などの環境が重要。海藻・海草は二酸化炭素(CO2)を吸い、地球温暖化や水温上昇を防ぐ役割も担う。海藻・海草を食害する生物の防除などで藻場を再建しようという漁業者は北海道から沖縄まで現れている。CO2吸収を認められたことで、吸収相当量をカーボンクレジットとして企業などと売買可能な枠組み「Jブルークレジット」を取得する漁業者も。こうした「場の回復」も注目したい。
温暖化対応へ日本の知恵生かせ

先述の野付湾のアサリ同様、元々は科学的な漁業管理下で安定していた資源が、高水温で激減したと考えられる例に伊勢・三河湾のイカナゴもある。海の環境が変わり、すめる魚の種類が変わる、海域が養える魚の量が減るなどの事態は、向こう数十年地球温暖化が続くと予測される中、ある程度まで避けがたい。
忘れられがちなのは、魚が減った原因が漁獲以外の環境要因だとしても、漁業の獲り控えが必要になってしまうという点。1990年代前半のマイワシ太平洋系群のように、減った原因が環境要因だと判明しているケースでも、減った後に漁獲圧が下げられないと、資源の回復は遅れる。また、海で養える魚の量が減った時、かつてと同じだけの量を獲れば、漁獲死で産卵できない魚の割合は高まり、資源と漁獲をより減らしてしまう。
海が細っていく今、水産業を守るために重要なのは、漁獲量ではなく、売上金額を高める発想であろう。先のようにより価値の高いサイズの魚体を狙うなどの工夫。これは漁獲量規制が確立されていなかった江戸時代から漁具などの制限を編み出してきた日本の、いわば伝統芸でもある。
温暖化が進めば、従来いた魚種が減ったとしても、暖海性の高級魚、例えばハタ類やフエダイ類などが増える期待はある。これらは大型サイズになるほど売価が付きやすく、脂のりの良さや生食需要からインバウンド等の経済効果にも期待できる。ただ同時に、成熟が遅く、未成魚を乱獲されると減りやすい魚でもある。こうした魚をうまく管理し、価値を引き出していく。そんな計画性や工夫が、今後の漁業経営には重要だろう。
努力報われぬ構造は課題
研究者と現場の対話急げ
先の通り、国が漁獲枠を設定できる魚種には限りがある。ここで重要なのが「資源管理協定」の枠組み。協定は各地の漁業者の自主管理策などを、県などの行政が認定するもの。協定をつくることは、漁業者の減収を補填(ほてん)する「積立ぷらす」など補助金類の要件でもある。資源を回復させるため漁獲を抑える、その際の漁業経営を守るという設計となる。
ただ、学識者や料理人団体シェフス・フォー・ザ・ブルーなどの調べでは、協定の大部分で科学的根拠が説明されていない。魚が来遊しない時期や市場が休みの日だけ休漁する、実質的に漁獲圧を抑えられない取り組みも多く報告される。実質的に資源を維持回復する効果が期待できない取り組みも、本記事で紹介した科学的な取り組みも、同じお金をもらえる構造。これでは「厳しく資源を守るより、あまり獲り控えず補助金ももらったほうが得」と動く漁業者が現れても責められない。
管理策が資源の維持回復に十分か科学的に検証し、努力をする人ほど見返りがある。そんな制度設計づくりが、喫緊の課題といえよう。
予算や交流で水産庁に前進も
客観的なひいき目抜きの目線で、いかに環境変化に向き合い、どの魚をどれだけ獲り控えるべきか判断するため、科学者の力は必要。だが現状、国内の漁業関係者から、資源管理の必要性について科学者の説明が分かりづらい、漁業者からの知見を科学者が積極的に聞こうとしないといった不満の声は少なくない。
そんな中、漁獲枠管理の好事例に挙げた日本海西部のズワイガニについては、漁業者と科学者が丁寧に対話できているとのコメントが関係者から多い。漁獲の減枠や脱皮直後の個体の保護の議論でも、漁業者から前向きな反応は目立つ。
このズワイをモデルケースに、水産庁などの関係者が一昨年から、合宿方式で「漁師のための水産資源交流プログラム(MREP〈エムレップ〉)」を始めた。漁業者、科学者、行政官などが勉強会や食事などを共にする内容。資源管理や、その基準となる科学について分かりやすく伝えつつ、漁業者が管理や科学に抱いている不信感や改善案を行政や研究者が知り、関係者間の信頼感醸成や科学・資源管理の改善を図る。米国西海岸などで成功した事例を参照している。
多数の研究者からは近年、漁業現場との対話に時間を使いたくても、研究の予算と人員が足りないせいでかなわないという証言が筆者に寄せられてきた。2020年代に入り、漁業者、流通業者、料理人、学識者などからは、日本の資源・環境の研究予算が米国などに大きく見劣りするとし、予算確保の提言が相次いでいる。
水産庁は今年6月、自民党水産総合調査会・水産部会との会議資料で、MREPのような対話の重要性を説明。また同庁は昨年度補正・今年度当初予算で、資源や海洋環境の調査研究へ増額を得た。増額内容は沖合漁業の対象種が中心で、沿岸への研究が比較的薄い面もある。ただ、水産資源の維持回復と、そのための科学的な対話へ、前進しているのは確かだ。今後の関係者の建設的な議論に期待がかかる。
[みなと新聞2026年7月28日17時50分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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