みなと新聞

【みなと新聞】実態把握と負担軽減両立を スマート実装へ『本紙創刊80周年漁業企画/課題解決への技術活用』

2026.07.29

 持続可能な漁業を実現するため、水産資源や海の環境のデータを集め現状と向き合うことが重要だと、本特集で強調してきた。データを集めるためITの活用などスマート化が有効だが、スマート化の実装は順調に進んでいない部分もあった。大きな要因は水産現場の負担感。負担を減らし、データ提供がむしろ得と現場が実感できること、そして必要なデータの提出を国自らが主導していくことが必要になる。

項目の絞り込み

 海や資源、漁業の実態を分析する上で、多種多様の漁業データが役立つというのは本特集で紹介する通り。研究者からは「どんな項目のデータでも極力欲しい」との声も聞かれる。だが多様なデータ全ての提出を求められれば、漁業現場には作業の負担が大きい。どの目的のため、最低限、何のデータが、どれだけの人数から必要か。これを絞り込むことで、漁業現場への負担を極力抑えることが重要となる。

 漁獲枠や禁漁区の順守のようなデータは全漁業者への提供義務が必要かもしれないが、特定の魚種の資源量などの局所的なデータは関係漁業者だけに求めれば事足りる。

秘匿性確保

 漁業者は、好漁場を他の漁業者に知られて奪われたり、魚価を買い手に知られて買いたたかれたりすることを恐れやすい。漁業者保護のため、自治体がリアルタイムでのデータ報告を拒むケースもある。

 データの手広く迅速な収集と漁業者の不安解消を両立すべく、漁場や魚価に絡むデータについて「研究者と行政しか閲覧できないよう秘匿する」「あえて数日だけラグをつけて報告する」「秘匿性が必要なデータを漁業者から受け取る人(研究者や科学者)は漁業者とデータ保護に関する契約を結ぶ」など、方策の具体化を急ぎたい。

動機づくり

 漁業データは、長い目で環境や資源を回復させるだけでなく、短期的に漁業の効率を高めコストを下げるため有効だ。データ収集を、漁業者自身が「面倒」なことでなく「助かる」ことと捉えられる機運を高めたい。

 どの漁場で、水温・海流などの環境がどういう条件だった時、どんな魚が獲れやすかったか、記録し分析できる。そんなサービスを、水産IT企業や研究機関などが提供する事例は増えている。

 日本事務器(東京都渋谷区)のサービス「MarineManager +reC.」は、機械が不得意な人でもデータの記録や活用がしやすいよう、操作アプリを工夫。漁業者の用いる漁法や好みによって欲しい情報は違うため、本人が望む情報を利用者ごとにカスタマイズしてタップ1回で記録・表示できる。操作が簡単になり「アプリの利用継続率は向上。漁業者が自ら『漁業者同士で航跡情報を共有して、まだ操業していない漁場を視覚化し、そこを狙って効率的に操業しよう』などの工夫を提案する例も出てきている」(同社)。

 ライトハウス(福岡市)のサービス「ISANA」シリーズは、漁場探索をサポート。複数の巻網や引網の漁船がチームを組んで漁場を探す場合は、船同士でリアルタイムの魚群探知機やソナー、航跡などのデータを共有し、どの漁場に行くべきか比較できる。カツオ・マグロの一本釣と延縄向けに、海況データを速報して漁場選定に役立てるサービスも。従来電波の届きづらかった沖合域も近年、米国スペースX社の衛星を用いた「スターリンク」によって、コストの大幅削減に成功するなどで「シェアが伸びている」(同社)。

 こうしたサービスや測位情報を通じ、漁船がいつどこで操業したかといった行政への報告を自動化できるシステムが普及しつつあるのは、本特集中で述べてきた通り。詳細な漁獲報告を求められる沖合漁業には、作業の自動化は貴重だ。

 漁船と漁港が交信できる場合もメリットが大きい。水産大学校(山口県下関市)の開発した沖合底引網向きのアプリでは、漁船側が市場単価を把握し水揚金額や入港すべきタイミングなどを、漁港側が水揚量を把握し入港時に用意すべき氷や資材の量などを、それぞれ精緻に予測できる。

不可欠な政府の主導

 どのようなデータを、どのように集めれば、水産現場への負担を抑えつつ、海や資源や漁業の実態を捉えられるか。こうした議論については、多数のIT業者から「国が主導しないと進まない」と指摘がやまない。漁業者は日々の操業やその年の経営に心血を注ぐ立場であり、長い目で資源を維持回復させるためといえど、科学的な議論やデータ提供の作業に手間をかけるのは難しい。政府による主導や義務化による強制力が必要という訴えだ。

 オーシャンソリューションテクノロジー(長崎県佐世保市)の水上陽介代表は、海洋環境や水産資源のデータが集まることで「漁業者が『自分たちへの規制につながるのでは』と不安を持つのは当然」と分析。一方で「政府が『漁業を守るために、資源を保つ方法を皆で考えましょう、その議論を日本が主導するためのデータ収集です』『資源量が増えても漁獲枠が増やせないと、漁業現場も苦しいですよね。解消するためのデータ速報です』と丁寧に説明すれば理解を得られるのでは」とみる。

 現場への単なる強制でなく、丁寧な説明が伴う納得度の高い施策・データ収集へ。視野の広い議論が、国に期待される。

[みなと新聞2026年7月28日17時50分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/

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