【石川】環境団体のEDF(エンバイロメンタル・ディフェンス・ファンド)ジャパンは水産庁、JF全漁連、大日本水産会など関係者からなる委員会と15~16日、ブリの漁獲可能量(TAC、漁獲枠)管理に関する定置網漁業者・科学者・行政の意見交換と信頼関係の構築を目指し、金沢市で合宿型交流会MREP(エムレップ)を開いた。

漁獲を制限して次世代の資源を確保することの重要性や、実際の世界の資源管理で漁業者らが体験した苦労、ブリの資源量を推定する方法論などを共有。漁業者らからは、漁獲枠導入に向けた不安のみならず、よりビジネスにおいて重要な時期に枠を残しておくための運用法、予想される違反行為への対処方法など、建設的な問題提起やアイデアも多く出た。
EDF主導で、米国で行われてきた水産資源教育プログラムのノウハウを基に、開催してきた日本版MREP。4回目となる今回は「1府4県ブリ定置網編」と銘打ち、関係県の漁業者、水産業界団体、自治体、水産庁、研究機関などから約80人が参加した。
石川県内で定置網を経営する日の出大敷の中田洋助社長は、ブリにTAC管理を導入する政府方針を前提に、漁業経営に負担の少ない枠の運用法の検討例を紹介した。外浦(県西部の外洋側)では春季の小型(フクラギ、ガンド)サイズを主力とし、内浦(県東部の内湾側)では冬の大型寒ブリが重要という経営実態を考慮。主漁期に枠を獲り残すため、痩せた個体が多く比較的重要度の低い夏の漁獲を避ける構想を例示した。
ブリの群れの入網を的確に知るため、定置網に遠隔魚探を設置して入網を察知することも提言。ブリが金庫網(定置網からトンネル状の構造によって接続されるいけす状の網)に入り込みやすい性質を利用し、経営上の重要度が高い寒ブリを金庫網へ追い込んでから、数日かけて出荷して安定供給につなげるといった方法も示した。
県内の総枠を網個別の枠と外浦同士・内浦同士の共有枠に割り振り、状況に応じて内浦と外浦で枠を融通し合うことで極力、出漁できない船が出ないよう工夫したクロマグロ漁獲枠管理の経験も披露。休漁や枠の融通含む利害調整・合意形成を素早く行うため、定置協会・漁協・行政・研究機関が密に継続的にコミュニケーションを取る体制が鍵になるとみた。
中田氏は資源管理を「目的ではなく、持続的に稼ぐための手段」と強調。より稼げる品質のブリを稼げる時期に売るため、枠の柔軟な配分・融通などの工夫が必要になると展望した。
資源量推定を漁業者ら体験
EDF「人のつながりに価値」
ブリの漁獲枠管理を話し合ったMREPでは、水産研究・教育機構の研究者などが登壇し、ブリの資源量推定に使われるVPAという手法をゲーム形式で体験した。
ある年に3歳以上のブリが何尾漁獲されたかというデータや、漁獲されなくてもブリがどれだけ自然界で死ぬか(自然死亡率)などの観点から、その年に何尾のブリが海にいたかを推定。その前年に2歳が何尾、さらに前の年に1歳が何尾、さらにさらに前の年に0歳魚が何尾獲られたかのデータや自然死亡率も加味しつつ、「どの年に何歳のブリが何尾、海にいたか」を推定し、他の調査なども交え、「何歳のブリだと体重は何グラム程度か」を掛け合わせることで資源量を推定していく。
漁業者からは、推定に至るまでに多くの仮定が置かれていることを不安視する意見も。研究者からは、仮定や誤差があることを前提に、いかにして誤差を減らそうと努力しているか説明があった。
水産庁は、現在のTAC管理の意義について解説。海に一定量の親魚を獲り残せないと、十分な産卵ができず次世代の資源が減ってしまう▽だが、親魚と産卵が多いと、子世代の魚同士が餌やすみかを奪い合うため、生き残れる割合は高まらない▽よって、適度に漁獲し、必要な分の親魚だけを獲り残す―というMSY(最大持続生産量)理論などを紹介した。
県内で定置網を営む金城水産の窪川敏治社長も熱心に発言した。TAC制度の弊害として、枠の消化を隠したい漁業者が魚体を投棄する危険性を指摘。ブリでこうした抜け駆け行為が起きぬよう、予想される手口と対策を考えるべきとみた。窪川氏は本紙に対し、「今回は1回目ということで基礎的な話が主だったが、今後はより実践的な課題解決に期待」と付け加えた。
EDFジャパンのシェムズ・ジャッド海洋・漁業プログラムディレクターは、MREPの意義を説明。米国西海岸でのMREP発足時を「最初はうまくいくのか(自身でも)半信半疑だった」としつつ、「間違っていた。科学者、行政担当者、漁業者の皆に価値があった。知識の提供だけでなく、人と人のつながりをつくったことにも大きな価値があった」と回想した。
現地には海洋保護のために禁漁区が存在。漁業者からは禁漁区の開放、環境団体からは禁漁区の拡大という真逆の訴えが上がっていた。EDFは両者と科学者の間に入ることでMREPを先導。漁業者が入漁したい一部海域を開放しつつ、環境団体が重視する一部海域を禁漁することで、最終的には満場一致の合意を得た。
さらにMREPは、ウィドウロックフィッシュというメバルの仲間の漁獲が減った際も、漁業者と科学者を仲介。科学者は漁獲の減少を資源の減少と解釈し、漁獲枠の大幅削減を検討していたが、漁業者は獲り過ぎて枠を使い切らないよう、同種の多い海域を避けているだけだと会合中に説明した。資源が悪化していないことが証明され、大幅な減枠も免れた。
ジャッド氏は、MREPを「資源を守ることだけでなく、漁業者の生活や地域の経済を守ることにつながる」と強調。漁業者と科学者、行政による対話の重要性を訴えた。
[みなと新聞2026年9月29日17時50分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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