みなと新聞

【みなと新聞】気候変動に強い漁業へ 【連載】不確かな未来にどう備える〈1〉 ※情報協力:EDF

2023.07.11

 本紙では近年、世界各国で活動している非営利団体エンバイロメンタル・ディフェンス・ファンド(EDF)提供の下、国内外の漁業関係者からのインタビューを中心に、水産資源の回復や有効活用を考える連載をしてきた。今年もEDF提供の連載を不定期で行っていく。

将来予測し漁獲・環境両にらみ

 初回のテーマは「気候変動に強い漁業とは」。近年は気候変動で海水温が上がり、さまざまな魚種の増減や分布に影響する。政府は、サンマやスルメイカ、サケの年間漁獲量が史上最低を更新した背景に高水温があると分析。減る魚がいる一方で、増える魚種を代わりに獲るべきという議論もある。世界的に気候変動対策が進む中、EDFは「気候変動に回復力のある漁業」に向け、次の5つの要素が重要だと報告している。

 〈①生態系の回復力向上〉
 米国のチェサピーク湾では、上流の農場などからの汚濁の削減、水路の修復などによる環境改善と、漁業の管理を同時に行うことによって、気候が変化する近年においてもシラスウナギやワタリガニ、底生生物類の生息数増加、有害藻類発生の減少など、生態系や水産資源への好影響が報告される。これにより漁業への好影響も期待されるところだ。気候変動の最中でも工夫を怠らず、人為的に改善を図ることが大切といえる。

 〈②効果的な漁業管理の実現〉
 EDFは「水温変動など、すぐに人為的に変えられない要素はある。ただし、漁業管理など、すぐに変えられることもある」と強調する。例えばマイワシの仲間は水温次第で魚卵や仔稚魚の大量発生や大量死を起こしやすいが、大量発生したときに多めに獲ったり、大量死したときに漁獲を控えることで資源回復を早めたりすれば、資源量の安定や効率的な漁獲を図ることは可能。

 実際、米国西海岸では、表面水温と発生量の関係性のデータを数十年単位で集め、漁獲規則の設定に生かしている。日本でも漁業者から水温変化による資源の増減が盛んに指摘される今、環境データなどの分析と、それを考慮した漁業管理がいっそう重要となっている。

 〈③公平性・公正性の向上〉
 南米チリ周辺では2000年代初頭からアメリカオオアカイカの分布の沖合化が起き、気候変動の影響とみられている。沖合で漁獲を伸ばしたい大規模漁業者と、大規模漁業による乱獲・生態系悪化を危惧する小規模漁業者の間で紛争が勃発、特に19年ごろ激化した。

 EDFは「気候変動が強まれば、こうした“魚戦争”はさらに起こるだろう。漁業関係者や国家が変化に適応する際、公平性・公正性を考慮した丁寧な議論が必要。さもなくば、(議論の)進展が妨げられ、より悪い結果を招く」と懸念する。

 小規模漁業者の生活と大規模漁業の経営とのバランスをいかに取り、公平性・公正性を確保するか。関係者の立場によって意見が異なる難しい議論だが、今後、いっそう避け難いものとなりそうだ。

 〈④将来の変化に備える対策の計画〉
 気候変動によって将来、資源の量や分布がどう変わるのか。予測が精緻にできるほど、増える資源や漁場を効率的に使ったり、減った資源の獲り控え・維持回復を図ったりしやすい。精緻な予想にはリアルタイムなモニタリングと資源変動への対応が重要だ。気候変動による資源の変化を正確に把握するためには、②に示したような海洋環境の常時監視と分析、資源量の変動予測と対策が重要となる。

 南米沖のフンボルト海流域では、周辺3カ国(チリ、エクアドル、ペルー)がEDFの助言を受けつつ連携し、多様なデータを集積。特に漁業において重要かつ環境要因で増減しやすいカタクチイワシに重点を置きつつ、今後の海洋環境や生態系、資源の変化を予測する。

 〈⑤国際協力の強化〉
 南米のフンボルト海流域3カ国では、水産資源の変化の予兆をあらかじめ水産関係者・行政・科学者に知らせた上で、足並みをそろえて漁業管理するよう促す「3カ国早期警報システム」がすでに稼働している。カタクチなどは、国境を越えて回遊しており、今後の水温上昇でどの国に回遊しやすくなるか読みづらい状態。適切に資源を維持するため、このように国の垣根を越えた協調がますます重要となる。

[みなと新聞2023年7月7日18時20分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/

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