みなと新聞

【みなと新聞】環境口実にせず資源管理を 『水産未来サミットを振り返る』(上)

2024.06.03

 3月、北海道から沖縄までの漁業者を中心に、水産加工流通業者、識者など有志100人以上、実行委員30人以上が宮城県気仙沼市に集まり、第1回「水産未来サミット」(実行委員長・津田祐樹フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング社長)が開かれた。示唆に富む意見が続いたため、全2回の連載に分け、改めて振り返る。

行政の役割や予算配分課題

 参加者らが特に白熱したのが、水産資源管理の議論。海洋環境の変化だけを口実にせずに管理内容を改良すること、魚の回遊範囲が漁業者の自主管理でカバーしきれない時には資源管理の音頭を行政で取ること、行政が漁獲量の制限をする際には漁獲枠の県別漁法別の配分などについて漁業者側との合意形成を丁寧に図ること、水産予算について補助金・公共工事だけでなく資源管理にも重点を置くこと―などを必要視した。

 ある登壇者は、日本の漁業生産量がピークだった1984年から3分の1以下に減っており、原因として海洋環境の変化や漁業者の減少、漁業管理の不足による資源減などが挙げられていると説明。一方、環境変化に弱いとされるマイワシを抜きにしても多くの魚種の漁獲が減っていること、漁獲技術の向上で漁業者の減少は必ずしも漁獲能力の減退を意味しなくなっていること、東日本大震災で被災した福島県で漁獲抑制を余儀なくされるなど、漁獲圧が下がると資源が増える傾向が過去の事例から明らかなこと、米アラスカはじめ漁獲規制の厳格な地で漁業が安定していることなどから、漁獲を人為的に管理する格好での資源管理が重要だと分析した。

 この登壇者は、日本も2018年に漁業法を改正し、より多くの魚種に漁獲可能量(TAC、漁獲枠)制限を導入する方針を打ち出したことを示しつつ、新規導入が予定通りに進んでおらず、既存のTACでも値が過大で資源を守り切るのに不十分な場合があるとみられる、水産庁予算全体のうち資源の増減や原因を調べる資源評価の予算が漁業補助金や公共工事などと比べて少ない、といった視点を紹介。津田委員長も資源評価予算の不足を課題視した。

 別の学識者は、現状、国内の関係者の間で、「獲り過ぎで資源が減ったから資源管理を強めるべき」「ちゃんと管理してきたので強化は不要」と意見が割れがちだと考察。ただし、海洋環境の変化が明らかな今、従来の管理策が通用しなくなっている可能性が高いとし「新たな管理を考える必要はある。犯人捜しではなく、未来に向けやるべきことの議論を」と呼びかけた。

 発言した漁業者らは、未成魚の再放流や禁漁期、漁具規制など各自の自主的な資源管理の取り組みを紹介した。一方、自主的管理では地域や漁法の異なる漁業者から協力を得づらい、漁獲技術の発展で小規模漁業も資源に打撃を与えつつある、との認識はおおむね一致。「(行政からの)トップダウンの漁獲枠を漁師が守るやり方も必ず必要」などと訴えた。

 漁業者からは、漁獲枠の必要性に賛同しつつ、合意形成の大切さを説く声も。国際機関で太平洋クロマグロの漁獲枠が導入された当初、行政が枠をどのように都道府県別・漁法別で配分するかについて漁業者側からの合意を十分に得られず、また国内の枠に法的拘束力もなかったため、一部の漁業者が枠を超えて漁獲し、同じ都道府県の別の漁業者まで枠を削られるなど、不公平感や混乱が生まれ現在も尾を引いていると証言。丁寧な合意形成を行政に求めた。

 参加者からは「公平感を持って漁獲上限を抑える仕組みはまだできていない。クロマグロ資源は増えたが大変な状況。それは(漁業者は)反対してしまう」と認めつつ「基本的には(漁獲量などを)科学的に線引きしないといけない。政治家や周辺事業者などから、地元漁業者の雇用や生活をみて、資源評価も不確実性が大きいことから『だから獲らせてあげようよ』という声もあるが、長い目で見ると(資源や漁獲、雇用がより減って)皆、困ってしまう」との意見もあった。

 「持続不可能な漁業をしていたら、未来永劫(えいごう)、漁業経営は良くならない」など、一時的な漁獲抑制の痛みを覚悟しつつ今から動くことで、むしろ未来の破局的な痛みを防ぐことができるという見方が、複数の参加者から示された。

[みなと新聞2024年5月31日18時10分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/

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