※写真:エンバイロンメンタル・ディフェンス・ファンド提供
実効的な監視技術が鍵
水産資源の回復へ、より多くの漁業関係者が納得・協力できる方法を、米国を本拠地として日本でも活動する環境団体エンバイロンメンタル・ディフェンス・ファンド(EDF)の提供で考える連載の最終回。テーマは「漁業と遊漁の共存共栄」だ。漁業者が漁獲可能量(TAC)の制限でより厳格な管理を受けつつある今、釣り船などの遊漁者も管理を受けるべきとの要請は強い。遊漁を実効的に管理し、むしろ漁村の収入源として、ウィンウィンの関係を築く道筋を考える。
2015年、中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)はクロマグロの漁獲量制限を強化。日本は16~17年漁期に漁獲量が制限枠を超過して翌漁期の枠を差し引かれる、どの漁法に枠を多く配分すべきかについて紛争に見舞われるなど、対応に苦慮してきた。その後、漁業関係者の間で募ったのが遊漁管理の弱さへの不公平感だ。遊漁者が釣ったマグロは報告されないケースが多く、密流通にも回っているという証言が水産庁などに寄せられることとなった。
制度整備に可能性
水産庁は遊漁管理の必要性を認め、21年6月には各地の広域漁業調整委員会で、漁業法上の拘束力がある「委員会指示」によって、遊漁に対し同種小型魚(30キロ未満)の採捕禁止、大型魚の採捕報告などを義務付け、その後、大型魚の保持尾数制限などを設けた。同庁は、同種を釣りたい遊漁者や船舶の届け出制を、広調委の指示により最速で来年度から導入することを検討。今年3月に更新した資源管理ロードマップでも、同種の遊漁をTACに移行していく方針を明記した。
ただ、遊漁規制を導入した場合、順守状況の監視が壁となり得る。遊漁者の釣果は自己申告ベースで、第三者の立ち入り検査は違反報告や疑義情報があった場合などに限られているからだ。プロの漁業者による水揚げが漁協などの市場に集中し、そこで枠消化を把握しやすいことと比べるとカバー率は劣る。さらに、向こう数年でより多くの魚種にTAC管理を本格化しようという水産庁の方針の中、クロマグロ以外の魚種でも漁業関係者が遊漁管理を求めるケースは増えており、監視面の重要度がより高まっている。
AI活用で効率化
現状、国内の遊漁船には法的に都道府県への登録義務が課されており、この枠組みを生かして採捕規則の周知・順守も義務化することは可能。ただし、遊漁船全体を見張るために各地の港に多数の監視員などをつけると莫大(ばくだい)な行政予算がかかる。まして登録義務自体がないプレジャーボートによる遊漁の監視は、対象船を絞ることすら難しい。
そこで期待がかかるのが、電子モニタリング(EM)技術だ。例えばEDFは、港湾の出入り口にカメラをつけて、出入港日時を追跡できるシステム(スマートパス)を開発した。現在、米オレゴン州政府などと協力し、陸側から遊漁管理を進めている。
スマートパスシステムで資源管理対象魚種の釣獲が多そうな港湾を監視する▽管理対象種を狙う遊漁船には出入港時刻の事前申告を義務付ける(人工知能〈AI〉で自動的に判別し記録する)▽漁場との距離や遊漁船数、乗船者の多さなどを基に、対象種を狙うと思われる遊漁船が多い港湾を割り出し、優先的に抜き打ちの監視員を送る―といった方法であれば、比較的人件費を抑えつつ効果的な監視が可能となろう。
EDFなどが遊漁管理の課題と対策をまとめた資料によると、遊漁者の監視は全員に行わずとも、全体の3%に抜き打ち査察を行うだけで、罰則を意識させる効果があるという調査結果がある。また監視コストの確保に向け、監視コストの一部を遊漁者からも入漁料などの形で負担させるアイデアを紹介。加えて、遊漁者の意見を国に伝え、国の方針を遊漁者に伝える団体(ピークボディ)の必要性を指摘している。
一部の国や地域では遊漁者が行政からライセンスを受け取っているのと比べ、日本にはそうした枠組みがないというのも大きい。現状、行政から遊漁者に対し、ライセンスに基づいて罰則を科すなどの取り締まりはできないが、何らかの形で国内の遊漁者の中から多くの人数が参画できるような意思決定システムが、今後求められる可能性が高い。
漁業関係者からは「魚を奪ってくる敵」とみなされがちな遊漁。前述したような船釣りに加え、陸からの釣りも含め、管理に課題が多いことは確かだ。だが、両者は今後次第で共存共栄を模索し得る。
水産庁が推進する「海業」では、遊漁を含む観光で漁村の収入を増やそうと構想する。また、例えば遊漁者のライセンス料などを用い、行政官のみならず地元漁協などの人材に遊漁監視を委託すれば、漁村地域の収入源も増える。遊漁者の釣った魚をスマホ撮影すると、種類やサイズを推定し、資源の増減などの評価に貢献できるというSIIG(新潟県佐渡市)などの技術開発も進む。「敵」ではなく、沿岸地域を共に活性化させるパートナーとしての関係を期待したい。
[みなと新聞2024年12月9日18時10分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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