
前回の通り、スルメイカの子世代の発生を減らさないためには、一定水準以上の親魚を獲り残して産卵させる必要性があり、また現時点で日本近海のスルメは親魚不足の状態にある。
一方で、スルメは資源量が環境要因次第で乱高下するため、予測が極めて難しい。資源予測を基に漁獲枠(TAC)を制限しても効果が薄いという漁業関係者らの指摘は正しい。予想が信用できぬ中で重要なのは、資源の増減を予測でなく、リアルタイムの実測で高精度に把握すること。予想より資源が多い年に枠を増やす考えは重要だ。
だが、資源が増える、枠を緩める前提にだけ視野が偏り、資源が少ない時の減枠を拒絶するなら、未来の資源と漁獲を危機にさらす、ギャンブルに等しい。この点に今回、焦点を当てる。
■ポイント④急な増減への対応
漁獲枠は、漁期年に海にどれだけの資源がいるのか事前予測し、そのうちどれだけ獲り残せば、十分な産卵を得られそうかと算定する。だが、スルメの寿命は1年しかない。よって、「環境条件次第で卵や仔魚が生き残る(発生する)量や資源量の予測が大きく外れやすい。その年の発生に合わせた枠でないと信頼性が薄い」と、漁業関係者らから問題提起があった。これは水産研究・教育機構などの長年の観測と一致し、的確といえる。
実際、昨年の資源予測はズレが大きかった。太平洋側に多く来遊する冬生まれの個体群は、親魚の推定量が一昨年末の分析で4・2万トン(2023年漁期時点)、十分な産卵に必要とされる25・5万トンの16%しかないとみられた。一方、最新データを組み入れた昨年末の推定(25年漁期時点)では15万トン。予測と3倍以上差があったことになる。資源が多めに発生した年に、実態よりも過小な枠しか与えられず漁獲できないのは問題だ。
実際、昨秋は資源が増えたとの判断の下、水産庁が漁獲枠を増やした。とはいえ、そのやり方にももろさはあった。北日本の漁場への来遊量の指標値が高かったため、資源量が回復したとみなし、枠を緩めた。だが、当時は水温などの条件が良いために偶然イカが漁場に来ているだけか、資源量自体が増えていたのか、裏付けるデータが乏しかったのだ。だからこそ、増枠に対して早計との批判が集まった。
本質的に求められるのは、本当に資源が十分発生した年に漁獲枠を拡大でき、資源が足りない時には漁獲を抑えて産卵量を確保できる体制だ。
リアルタイムの資源データで枠を修正できるようにする▽一部漁場だけでなく生息域の広範なデータを基に、資源が本当に豊富か判断できるようにする▽資源が多そうな年に枠を増やすだけでなく、少ない年は枠を絞る―という柔軟性が重要となる。
昨年11月27日付の本紙連載「水産庁予算の″攻めあぐね”」内で書いたように、具体的に議論したい。
増枠一辺倒の視野は危険
経営痛み、むしろ増大
水産庁が4日に開いた会合で、スルメイカ漁に関わる団体や自治体の大部分は、水産庁が提案する26年漁期の枠の候補(3万~6・8万トン)のうち、最も多くなる6・8万トンを要望。枠を大きくする場合、仮に漁期中に想定以上の資源が来遊しても増枠はできないという水産庁に対し、さらなる増枠を求める声も多く出た。根拠には、当初予想より多く資源が発生する(卵や仔稚イカが生き残る)可能性が挙がる。
ただ、生き残り率はその年の海洋環境次第で変わる、いわばギャンブル要素。ギャンブルに勝つ(生き残りが多い)前提で出費(漁獲)すれば、負けた(生き残りが少ない)年に破産(資源崩壊)し、何年も取り返しがつきづらくなる。生き残りが悪い年は、柔軟に枠を減らす必要も出る。
漁業を計画的に行うため、資源が少ない年も減枠はしないでほしいという関係者も存在する。だが、漁船や加工流通インフラの稼働を1年間我慢するより、資源が崩壊して何年も稼働できなくなる方が経営に痛みが大きい。議論が増枠のみに偏り、減枠を拒絶するのは危険だ。資源が少ない時の減枠を肯定する意見は、漁業団体からも一部出つつある。
現状、秋生まれのスルメの親魚量は目標が25万5000トンでありながら、15年推定は3万9000トンで観測史上最低水準にとどまる。資源の母数が少ないということは、少ない漁獲でも、多くの割合を殺し、産卵を失うこと。資源崩壊のリスクは、まだ隣り合わせにある。
漁獲速報など明るい材料も
卵が「生き残る確率」は人間に制御できないが、「生まれる量」は増やし得る。その方法が漁獲制限だ。水産庁の藤田仁司長官は本紙年頭座談会(1月1日付)で「漁期に先んじて指標値などを決めて、どういう状況になったら漁獲枠を修正するのかなどを議論しておかないといけない」と発言。その年の生き残りを見つつ、柔軟にどれだけの量を獲り残すか考えていく姿勢を見せる。
幸い、明るい材料はある。昨年から北海道などが小型イカ釣で漁獲速報を実証化。来年度は水産庁の資源・環境研究予算が増額。資源量をリアルタイムで見る体制の構築は期待できる。
スルメは日本のみならず公海や周辺国を広く泳ぎ回る。資源が少なく、かつ水温上昇により北方の国への漁場移動も危ぶまれる現状、周辺国にも資源管理を求めたいところ。周辺国を北太平洋漁業委員会(NPFC)などで説得する際、現在行われている資源の評価・管理手法を、武器として有効活用したい。

[みなと新聞2026年2月6日17時50分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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