
世界自然保護基金(WWF)ジャパンは5月26~27日、持続可能なイカ漁を目指すイベント「イカサミット」を東京都内で開いた。環境団体に加え、漁業、加工業、行政などからの登壇者らは、会場とオンラインで150人以上が聴く中、違法・無報告・無規制(IUU)操業の撲滅や科学的な資源管理、そこに向けた電子的な漁獲情報収集システムの整備などを議論。ペルーやインドネシアで電子的な漁獲報告システムの実装が進む現状などが報告された。
国内の漁業関係者や行政官などが討論し、次のことを指摘した。
イカの資源量が年ごとの環境次第で激しく増減すること▽昨年、三陸沖にスルメイカの来遊が当初想定より多く漁期中の漁獲枠の増枠が図られ、資源自体が増えたのか、三陸に来遊が多いだけかなど、賛否が分かれたこと▽漁獲枠を過不足なく設定し、枠の超過を防ぐため、漁期中からリアルタイムの資源量や漁獲量を速報する必要があること。
漁獲データのリアルタイム速報に向け、各地で実装が進む電子的な漁獲把握システムについて報告があった。WWFペルーのホセ・カルロス・アルバレス・クロ氏とUmiosサステナビリティ推進課兼水産資源推進室の北川俊和課長代理は、同国で普及が進む報告アプリ「TrazApp」を紹介。スマートフォンなどの手軽な操作で、漁業者は船名・魚種別水揚量・入港地など、加工業者はカット方法や加工後重量、加工流通過程などを記録可能だ。どの加工ロットが、どの漁船の何日の操業によるのかなどが透明化でき、資源管理データや消費者へのPR材料、輸出に必要な証明書発行、税制優遇の獲得に活用できる。
同アプリがアメリカオオアカイカ漁船数千隻に実装されていること、アプリを活用したマルアナゴ漁がMSC(海洋管理協議会)認証取得目前(5月28日に取得を発表)で日本市場での販促も予定すること、その他小規模漁船へのアプリ実装を目指すことを明かした。
インドネシア海洋水産省水産開発アドバイザーの酒井光夫氏は、同国でもスマホなどでの水産流通の透明化が進んでいることを解説。政府が主導して開発する「ステリナシステム」によって、トレーサビリティーの確保や漁獲枠管理の進展を目指しているとした。
中国イカIUU海域移動か
日本周辺からインド洋などへ
イカサミットではグローバル・フィッシング・ウォッチ(GFW)チーフ・サイエンティストであるデービッド・クルーズマ氏が動画上で講演し、中国などによるIUU操業の実態を分析。中国のイカ釣船が近年、日本近海に現れづらくなり、インド洋や南米周辺で操業していると明かした。
同団体はIT大手グーグルなどの協力下で、人工衛星からの船の光学画像・集魚灯画像・レーダーなどの情報や船舶自動識別装置(AIS)、船舶位置監視装置(VMS)の情報を組み合わせて船舶の活動を可視化・公開。船舶の航跡からどのような漁法でどの程度の回数を操業したのかなども推定できる。
GFWの調べでは、公海上で操業するイカ釣漁船の9割以上が中国由来で、IUU操業とおぼしきものが目立つ。漁場は日本と近い北西太平洋の他、南米周辺の東太平洋と南大西洋、中東に近い北西インド洋が主となる。ただし、2010年代後半に北朝鮮や日本周辺で目立っていた操業が近年減り、北西インド洋で勢力を伸ばしているとした。
中国国内の複数の環境団体は、同国が一部のイカ資源への漁獲枠(TAC)管理導入、遠洋漁場を含む年数カ月の自主休漁など、資源管理を進めていることを解説。一方で日本の漁業団体からは中国の違反操業を依然問題とみる意見があった。米国からの参加者が本紙に「日本と近い海域でここ数年、中国のイカIUU漁船が減っているのは確か。だが、南米などで操業が続く以上、中国政府が真剣にIUU撲滅に動いたとは考えづらい。何らかの外圧などで日本近海での操業を避けているだけでは」とコメントする場面もあった。
欧州や東アジアなどの参加者らからは、IUU漁船で資源の乱獲や保護種の殺傷のみならず、乗組員の奴隷労働・人権侵害などが起きていることを指摘しつつ、この撲滅に向け、国際社会の協力による水産物の商流透明化や不透明な商材への輸入規制を目指すべきという声が続いた。
世界的にイカの資源管理を進める方法論が議題に。WWFジャパンの植松周平漁業政策シニアマネージャーは、イカ資源が環境要因に左右されやすいことを認めつつも、産卵親魚が不足すると発生が減ると危惧。複数の漁獲国が参画する地域漁業管理機関の設立、人権的に問題のある漁船への取り締まり枠組みの検討、中国などのうちIUUを避け良い商材を増やそうとする人々との連携―などを必要視した。
全国いか加工業協同組合の韮沢新太郎専務は、問題ある商品をブラックリスト的に廃絶する方法に、「うまくいくイメージは持っていない。それよりホワイト管理、正しい商品を消費者が望む環境が重要」との見解を述べた。サステナブル・フィッシャリーズ・パートナーシップでサプライチェーンラウンドテーブルディレクターを務めるカルメン・ゴンザレス・バレス氏は、日本や欧州など消費国、生産の多い中国を含め、多様な関係者の対話を必要視。政府同士の協議が難しい場面でも、科学にまつわる意見交換など糸口はあるとみた。
主催者はサミット閉式時、「世界のイカ資源の未来を共に守るための共同宣言」を取りまとめた。国際協力・情報共有の強化、電子的な漁獲情報の速やかな収集体制の構築、最善の科学に基づく資源管理―などを掲げ、今後賛同者を募るとした。
[みなと新聞2026年5月29日17時50分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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