放流しても魚は増えず、むしろ河川の魚類群集に悪影響-。北海道大学大学院地球環境科学研究院の先崎理之助教らの研究チームは魚のふ化放流は放流対象種を増やす効果はなく、放流で種内種間競争の激化を促し多くの場合で対象種を含む生物群集を長期的に減らすことを解明した。その上で「持続的な魚類の資源管理や生物多様性保全には、河川などの生息環境の改善や復元など別の抜本的対策が必要」と提言する。7日、総合科学誌の「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナルアカデミー・オブ・サイエンス」誌に研究結果が公開された。
放流は漁業対象種の増強を目的に、飼育下で繁殖させた在来種のふ化放流が普及しており、特に日本国内では毎年約20億尾のサケ・マス稚幼魚を放流している。膨大な数の稚魚放流は生態系のバランスを崩し生物群集全体の衰退につながる可能性があるが、長期的な影響は検証されていなかった。
研究チームは先崎助教、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校の照井慧助教、北海道立総合研究機構の卜部浩一研究主幹、国立極地研究所(当時)の西沢文吾氏。シミュレーションによる理論分析と、北海道全道の保護水面河川の過去21年の魚類群集データによる実証分析を行い、放流が河川の魚類群集に与える長期的影響を検証した。
理論分析では放流対象種1種とその他9種の計10種の魚類群集について、放流対象種の生態的特性と環境収容力が異なる32パターンのシナリオを準備。各シナリオで毎年放流した場合に魚類群集全体・放流対象種・他種の密度と種数がどう応答するかを調べた。
実証分析では1999~2019年に北海道全域の保護水面河川で北海道総合研究機構が定量的手法で取得した魚類群集の長期データを用いた。河川では毎年最大24万尾のサクラマスを放流している。統計モデルを用いて放流数に応じて魚類群集全体、サクラマス種、他種の密度と種数がどう変化するかを推定した。
理論分析の結果、放流は群集内の種間競争を激化させ、放流対象種以外の種を排除する効果を持つことがほとんどのシナリオで示された。過度な放流で種間競争が激化し放流対象種の自然繁殖による増加が抑制されることも分かった。放流が放流対象種の増加に寄与するのは環境収容力が十分大きく、種内競争が弱い場合のみだった。
また、実証分析からもサクラマスの放流が大規模に行われている河川ほどサクラマスとその他の魚種の密度が低下し、結果的に魚類群集全体の密度と種数が低下することが分かった。
研究チームは「過度な放流は生態系サービスの著しい損失を招く」と警鐘を鳴らす。その上で、「産卵遡上(そじょう)を阻害し、野生サケ・マス資源の減少に大きな影響を与えたとされるダムなどの部分撤去や魚道設置を行い、本来の産卵域へのアクセスを回復する取り組みが急務だ。また、河川改修で失われた稚幼魚の成育に適した環境の復元で環境収容力を向上し、野生サケ・マス資源の回復を進める必要がある」とサケ・マス資源の回復手法を提言する。
[みなと新聞2023年2月14日18時20分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/
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