みなと新聞

【みなと新聞】資源持続性も対策開示を TSSSでニッスイなどDD必要性議論

2024.10.23

 持続可能な水産業の実現を目指して東京都内で開かれた「第10回東京サステナブルシーフード・サミット(TSSS)」(シーフードレガシー、日経ESG主催)で8日、企業の抱えるリスクに対処して結果を透明化する「デューデリジェンス(DD)」の重要性が議題となった。商流の中の人権問題に加え、水産資源の持続性などについてもDDの機運が高まっている現状を紹介。資源状態のDDに向けてNGO(非政府組織)からの客観的な知見を活用するニッスイの取り組み、小規模漁業者のデータ収集などを進めるインドネシアの取り組みなどを解説した。

 米国のNGOコンサベーション・アライアンス・フォー・シーフード・ソリューションズでプロジェクトディレクターを務めるライアン・ビゲロ氏はDDの流れを説明。単に人権や資源、環境への配慮をうたうだけでなく、事業のリスクを分析する「特定・収集・評価」段階、分析結果から対処方法を具体化する「計画」段階、実行する「実施」段階、結果を確認する「監視・報告」段階、結果を基に実効性を高める「改善&反復」段階を繰り返し続けることの必要性を示した。

 ニッスイの森井茂夫サステナビリティ推進部長は、同社が調達水産物の資源状態に進めているDDを紹介した。太平洋クロマグロなどの乱獲が取り沙汰されていた2017年に「手探り」(森井部長)ながら、国連食糧農業機関(FAO)のデータなどを用いた調達物調査を開始。当時は魚粉や魚油が対象外だったが、20年と23年には米国のNGOサステナブル・フィッシャリーズ・パートナーシップ(SFP)の協力を得て評価内容を充実化した。

 20年から23年にかけ、同社が調達した水産物のうち、漁業管理が行われていないものの割合は21%から17%に低下。「よく管理されている」と評価できるものの割合は71%から75%に高まっており、現在も調達物のうち絶滅危惧種に当たるものをMSC(海洋管理協議会)の認証品に切り替える、ベトナムのエビ粗放養殖場の環境配慮や労働実態を調査するなど、環境・社会両面の持続可能性向上に向けたDDを進めているという。

 ニッスイの活動が生まれた背景として、持続可能性を求める社会的圧力や、社業が自然資本に依存しているという社内での意識の高まりがあったと述懐。投資家からDDを行っているか問われることも増えているとしつつ、「一方的に要求されるというより、一緒に考えてくれる人が増えている」感触だと語った。DDにかかるコストについては「サプライチェーン全体で負担するしかないと思う。大きな利益にはならないが、仕事を持続していくためにはどうしても必要」と展望した。

インドネシア小規模漁業もDD
科学データ取得へ現場育成

 TSSSでは、インドネシアで漁業と沿岸地域社会の長期的繁栄を目指すNGOのMDPIからはプトラ・サトリア・ティムール漁業リードもDDについて講演。持続可能な操業とフェアトレードUSA認証に必要なデータを収集するため、沿岸コミュニティー、特に小規模マグロ漁業者と女性の人材育成を進めていることを説明した。

 ティムール氏はインドネシア周辺のキハダの資源の悪化や管理の必要性を説明し、「沿岸コミュニティーの持続可能な暮らしを実現したい。持続的な漁業にはデータが必要」と強調した。一方で漁業者人口が多い上、行政の漁業免許制度が整備途上にある同国で、予算と人員の限られるNGOがデータを集めるには限界があるとも解説。漁村にリーダーを育て、データを提出できる能力を持たせようとしているとした。

 実際に一部の漁業者から漁獲量や漁船の位置情報、漁獲努力量、買受人への取引などデータを得られていること、このように漁業者を組織化するため漁協組織の育成が進んでいることも紹介。漁業者からの操業や取引に関するデータと政府の水産関係のデータベースを統合し、沿岸小規模漁業でも100%のトレーサビリティーを実現したいと意気込んだ。

 ティムール氏は登壇後に本紙の取材に応じた。データ収集によってフェアトレード認証を得た漁業者が数百人おり、その製品が欧米市場で高価格を得て本人や漁協に還元されていること、漁協組織に参加した漁業者が保険加入や融資を受けやすくなっていることなど、組織化が進んでいると明かした。

 日本生活協同組合連合会サステナビリティ戦略室の松本哲氏もDDのセッションに登壇。昨年、同会として人権方針を定め、原料生産から消費者に商材が渡るまでのサプライチェーン全体で労働環境などのリスク評価を強めていることを報告した。調達先であるインドネシアのエビ養殖において、現地の生態系や住民の生計を持続可能性にするための、現地加工会社や世界自然保護基金(WWF)との連携も紹介。養殖業改善プロジェクト(AIP)を通じた生残率向上やマングローブ林の再生、親エビ資源管理に向けたワーキンググループ形成など成果が生まれているとした。

 DDにかかるコストについては、単独企業、特に同会のような卸売業態として負担することに限界があると本音を吐露。水産流通適正化法のような法的枠組みによる義務拡大など、社会全体を巻き込む枠組みも必要とみた。

[みなと新聞2024年10月21日18時10分配信]
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/

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